【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.99】鈴木杏『舞台には人を惹きつけて離さない魔物が住んでいるのかも』(掲載開始日:2010年4月28日)

鈴木 杏(すずき・あん)
1987年4月27日、東京都出身。96年、ドラマ『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)でデビュー。映画『Returner リターナー』では、第26回日本アカデミー賞新人俳優賞と話題賞をダブル受賞し、注目を浴びる。2003年、舞台『奇跡の人』でヘレンケラー役を演じて以来、舞台女優としても活躍。09年には同舞台でアニー・サリヴァン役に挑戦し、その演技力を高く評価された。

初めてのドラマ出演は夢のような体験でした (鈴木杏)

ウチはとても映画好きの家族で、週に1度は必ずみんなで映画を観にいく習慣があったんです。加えて私が子供のころはトレンディドラマ全盛期で、母親とふたりで夢中でテレビ鑑賞しながら、ダブル浅野のおふたりに憧れる毎日でした。

とはいえ、小学生の私が「ドラマに出たい!」と言い出したときは、両親もビックリしたようです。でも、ダメでもともとで、人生経験のひとつとして挑戦させてもいいかもしれないと思ってくれたようで、私にチャンスがまわってきたんです。

『金田一少年の事件簿』に出演したときはまだ9歳でしたから、緊張するというよりも、テレビに写っている人が目の前にいるという不思議な感覚がすごく楽しくて。いまだに強く記憶に残っているのは、ともさかりえちゃんが私と一緒にお菓子の「ねるねるねるね」を作って食べてくれたこと。それはもう、夢のような体験でした。

人前で演じるということを自分の仕事と意識するようになったのは、それからずっと先のこと。印象深いのは、『神様のいたずら』(2000年、フジテレビ系)というドラマで岸谷五朗さんの娘役を演じたときです。コミカルなシーンの多いドラマで、早いテンポのセリフのやりとりはむずかしかったけど、それがピタッとはまったときはすごい爽快感なんです。演じるということの楽しさをこのドラマで学んだような気がします。

初舞台で味わった感動は一生忘れないでしょう (鈴木杏)

2003年、『奇跡の人』のヘレン・ケラー役で初舞台を踏んだときは、大きなカルチャーショックでした。

毎日稽古場に通ってひとつの役をつくりあげていく作業は、学校に通うみたいで楽しかったし、その成果を初日で目の当たりにしたときの感動は忘れられないものになりました。カーテンコールでお客さんがスタンディングオベイションをしてくれたとき、舞台の上から見た光景は私にとって、一種の原風景です。たぶん、これから舞台に立ち続けていく上で、このときの体験がよりどころになるんだなという予感がその瞬間からありました。

そういうわけで、『奇跡の人』はとても思い出深い作品なんですが、まさかその6年後にアニー・サリヴァン役がまわってくるとは思ってもいませんでした。それはまさに「奇跡」でした。

でも、原作を読んでみると、実在のサリバン先生も 20代の若さでヘレンと出会っているんです。赴任してきた先生があまりに若いので家族がガッカリする場面なども描かれていて、もし私がサリバン先生を演じるチャンスがあるなら、20代のうちに出会いたいと心のどこかでは願っていたんです。だから、願い通りのことが起こったときは、本当に驚いたんですね。

もちろん、サリバン先生として舞台に立ったときは、彼女がヘレンの家族の前で感じただろうプレッシャーを同じように感じましたけど、それが逆にいい方向に働いたんでしょう。この舞台も私には忘れられない、幸せな思い出になりました。

舞台を終えて役を離れるとき、「私はまた次の役に出会わなくてはならないのか」と途方に暮れるときもあるんですが、次の役に出会った途端、わくわくしている自分がいることも確かなんです。舞台には、人を惹きつけて離さない「魔物」が住んでいるのかもしれません。

ダメ出しの連続で経験の幅が広がりました (鈴木杏)

話は前後しますが、2003年にヘレン・ケラーで初舞台を踏んだ私が2度目の舞台に立ったのは、蜷川幸雄さん演出の『ハムレット』のオフィーリア役でした。

奇跡の人』がほとんどセリフのない役だっただけに、本読みの段階からダメ出しの嵐。オフィーリアといえば悲劇のヒロインとして有名ですが、彼女がハムレットに「尼寺へ行け」と言われる有名なシーンは、本当に苦労しました。そこでは、オフィーリアの最大限の悲しみを表現しなければならないんですけど、その方法がわからないんです。しまいには蜷川さんに「洗濯バサミでもはさめば痛みがわかるか」なんて呆れられる始末。

でも、ケチョンケチョンにダメ出しをされながらも、ある瞬間にカチンとスイッチが入ったように「はい、よくできました」と言われるときがあって、大きく目を開かされました。蜷川さんのおかげで、経験の幅がすごく広がりましたね。

蜷川さんにはその後も『ロミオとジュリエット』をはじめ、『白夜の女騎士』、そして『ムサシ』にも起用していただいていますが、とてもありがたいことですね。今回の『ムサシ』は、再演する舞台に立つ初めての体験なので、ちょっとわくわくしているんです。蜷川さんとの稽古場は毎回毎回、「はい、よくできました」という言葉を聞くまで苦労の連続なんですが、今回は初演のとき以上の力を出せればいいなと思っています。

鈴木杏さんへQ&A

Q:落ち込んだときに食べるパワーフードは?
A:甘いものに走るときもあれば、辛いモノを
食べるときもあります。エスニック料理の
生春巻きとか。
Q:最近、ハマってることは?
A:DVD鑑賞が趣味なんですけど、今はドラマ
『きらきらひかる』にハマっています。
Q:もし、俳優になっていなかったら?
A:子供が好きなので、保母さんは今でも憧れの
職業です。友達の子と接していると、興味は
つきないです。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

テレビや映画などの映像作品の場合、今という瞬間を何度も観ることができる醍醐味があるけど、演劇にはそのときでしか味わえない今があると思うんです。演じた瞬間にお客さんの反応が舞台に返ってきて、お互いのコミュニケーションをとることができるのが演劇の醍醐味。だから、舞台の上で起こっていることに参加するような気持ちで楽しんでほしいですね。

これから演劇をしようと思っている人へ

これは私自身が大切に思っていることですけど、たくさんの作品を観ること。テレビや映画、演劇に限らず、手当たり次第にいろんな作品に触れると、自分の好みがよくわかるんです。好きな作品に出会えば目を開かれますし、逆にそれほど好みでなかった作品にも教えられることは多いです。なるべく多くの出会いを通じて自分を磨いていきたいと思っています。

鈴木杏さんの次回公演情報

『ムサシ』ロンドン・NYバージョンの画像画像を拡大する
『ムサシ』ロンドン・NYバージョン

2009年、日本演劇界の話題をさらった、井上ひさし蜷川幸雄の新作書き下ろし時代劇『ムサシ』。早くも2010年、ロンドン、NYからの正式招待を受け、世界2大都市での連続上演が決定した。新キャストを迎え、次なるステージに向け始動する『ムサシ』ロンドン・NYバージョンの凱旋公演を見逃すな!

凱旋公演
2010年5月15日(土)~6月10日(木)
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
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取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)

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