【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.91】春野寿美礼『つねに目の前の壁を超えようと無我夢中でした』(掲載開始日:2010年1月4日)

春野 寿美礼(はるの・すみれ)
1991年宝塚歌劇団に入団。同年3月に初舞台を踏み、翌年1月に花組に配属される。2002年、主演男役に就任。本公演のお披露目公演『エリザベート』では緩急自在な歌唱力が高く評価された。2007年12月『アデュー・マルセイユ/ラブ・シンフォニー』で惜しまれながら退団した後は、女優、歌手として活躍。2009年2月の主演ミュージカル『マルグリット』では華麗な転身が絶賛を浴びた。

初めて宝塚の公演を観たとき、「ここは私の居場所」と直感(春野寿美礼)

宝塚歌劇団と私をむすびつけたのは、母なんです。あとから聞くと、劇団に入るのを夢見ていた時期もあったそうで、ある日「宝塚って何?」と質問する私に、「観ればわかるわよ」と言って東京宝塚劇場に連れていってくれたんです。中学3年生のときでした。

実際、母が言う通り、自分で観なければ理解できないだろう独特の世界がそこに広がっていました。そして、「ここが私の居場所なんだ」ということを同時に私は確信したんです。ちょうど中学卒業を間近にして、進路についていろいろ考えていた時期だったこともあると思うんですが、絶好のタイミングでした。

すぐ母に宝塚音楽学校に入学したいと打ち明けて、半年の勉強の後に受験をして、無事入学が決まったときは、本当にうれしかった。でも、実際に生徒になってみると、思いがけないことの連続でした。

例えば、1年生は歌やダンスやお芝居について勉強する前に、まず教室の窓ふきやぞうきんがけの仕方をみっちり教わるんですが、これも「宝塚の舞台に立つ」という夢に到達するための重要なステップなんだと理解できるようになるまでには、多少の時間がかかりました。

同級生には小さいころからバレエや日本舞踊を習っているような優等生がたくさんいて、エンターテインメントの素養もまったくなく、下から数えたほうが早いような成績の私は、いつも無我夢中でした。

素のままの自分を出して自由に表現する楽しさを知った (春野寿美礼)

劇団の中にいたころの私をふり返ってみると、目の前にはつねに超えなくてはいけない壁があって、それを超えるたびにまた次の壁に突き当たる、その連続だったように思います。もちろん、舞台の上で表現することで多くの人に感動を与えたいという本来の目的を見失ってしまうことも、何度もありました。

2002年に花組男役のトップという「夢のまた夢」とも言えるような立場に抜擢されたときも、喜びよりも不安のほうが大きかったですね。自分がいかにして組を引っぱっていくかを神経質に考えすぎて、最初のころは悩んでばかり。まわりにいいところを見せなきゃいけない、完璧な作品に仕上げなきゃいけないと思い詰めるあまり、自分らしさをまったく表現できずにいたんですね。

そんなある日、『I got music』というコンサートを行ったんです。1幕目は、「おさだくん」というパーカッショニストが主人公のお芝居だったんですが、「おさだ」という名前は私の本名と同じなので、「だったら素のままで演じてみよう」と考えたんです。素の私は、ドジだし、おっちょこちょいだし、ときにはボーッとしたりする面もあるんですけど、普段、トップとして隠していたそういう部分をあえて出してみようと考えたんですね。

すると、そんな私をお客様が拍手や笑いを交えて、すごく温かく受け入れてくれたんです。そのときやっと、自由に自分を表現することの喜びを知ったように思います。お客様には、本当に大事なことを教えていただきました。

目の前は無限の課題と可能性でいっぱい (春野寿美礼)

トップになったとき、私はひとつのことを決心していました。それは、この大役を5年間つとめあげることに挑戦するということ。

自分の中でタイムリミットをもうけることで、惰性にならないよう自分を律しようとしたのかもしれません。時間がたつごとに、「あと○年だけど、大丈夫?

未練を残さずに引退することはできる?」と問いかけ続けた5年間。だから、自分との約束の日がやってきたとき、自然と引退の決意をすることができましたし、悔いも未練もありませんでした。

引退後に何をするのかは、あえて決めていませんでした。でも、それまで目の前の階段を昇るのに必死だっただけに、1年くらいは歌や演技の仕事から離れて過ごそうと考えたんです。その間は、普通の女性がするような仕事について、社会人として当たり前の感覚を改めて身につけたいと思っていました。

ただ、退団後に1つだけレコーディングの仕事を引き受けていて、それが終わったらすべてを封印するつもりでマイクの前に立ったんです。ところが歌い終えたとき、「このままずっと歌い続けないとダメだ」という気持ちになっていました。それは、宝塚歌劇団の花組の男役として歌うのとは、まったく異なる体験だったんです。春野寿美礼というひとりの女性として、まだまだ表現できていない課題や可能性が山ほどあることを思い知ったわけです。

ミュージカル『マルグリット』で男役ではなく、女優として舞台に立ったときも同じようなものを感じました。だから、今回のブロードウェイミュージカル『ファニー・ガール』も、とても楽しみにしているんです。バーブラ・ストライサンドが演じたこの作品は、かねてから大好きだっただけにプレッシャーもあるんですが、そこで自分がどんな表現をできるのか、見てみたいんです。

春野寿美礼さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:バブルバス。長風呂が苦手で、本を持ち込んだり、いろいろ試してみたんですが、泡のおかげで楽しめるように。
Q:落ち込んだときのパワーフードは?
A:パンが大好きなんです。中でも、MUJIカフェのクロワッサンは、最近のお気に入りです。
Q:お休みの日の過ごし方は?
A:天気のいい日ならば、外に出てブランチをするのが最近は楽しいです。ボーッとする時間がとても気持ちいい。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

私は舞台を観るとき、つい「衣装はどんなところを工夫しているんだろう」とか細かいところばかりを気にしてしまったり、「もし私が演じるとしたらどうするだろう」なんて余計なことを考えてしまうんですが、これは職業病みたいなものですね。本当は、無心に舞台の上の世界に触れ、感動することがいちばんだと思うんです。先入観を捨てて観るほうが、楽しみも広がるはずですよ。

これから演劇をしようと思っている人へ

私自身が心がけているのは、つねに純粋な心でいるということ。何ごとも「こうしなければならない」と決めつけて行うのではなくて、さまざまな経験を積むことで、いろんなことを吸収していくことが大切だと思うんです。自分がどうすべきかということは、そうした上で初めて見えてくるものなのかもしれません。得意なものだけじゃなくて、あえて苦手なものにも挑戦し続けていきたい。

春野寿美礼さんの次回公演情報

「ファニー・ガール」の画像画像を拡大する
ブロードウェイ・ミュージカル 「ファニー・ガール」

バーブラ・ストライサンドがアカデミー主演女優賞を受けた名作ミュージカル『ファニー・ガール』がいよいよ日本に上陸する。顔で笑って心で泣いて、つねに明るく前向きに生きた伝説のコメディエンヌ、ファニー・ブライスに扮するのは、かつて宝塚歌劇団で5年の長きにわたって男役トップを演じた春野 寿美礼。これに、劇団☆新感線で活躍する個性派俳優の橋本じゅん、春野と同じく元男役トップの剣幸、ハリウッド映画にも出演した綱島郷太郞が脇をかためる。これは見逃せないぞ!

東京公演 大阪公演
2010年1月8日~17日 2010年1月27日~30日
赤坂ACTシアター 梅田芸術劇場メインホール
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取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)
ヘアメイク/アユターレ 山元幸一郎
スタイリスト/ルプル
奥田ひろ子/トレイシーリース(東レ・ディプロモード)、カルガロ(ザ・キャラット銀座店)、アビステ、カシェ・ネックレス(ブルー・ベル)、rev k shop

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