【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.89】松雪 泰子『つねに模索の日々。でも、それが演じるということなんだと思います』(掲載開始日:2009年12月17日)

松雪 泰子(まつゆき・やすこ)
1972年佐賀県生まれ。91年にデビューし、数々のドラマ、映画、CMに出演。06年には映画『フラガール』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞など数々の賞を受賞。08年は『デトロイト・メタル・シテイ』、『容疑者Xの献身』の演技を評価され、第32回日本アカデミー賞助演女優賞を受賞した。近年は映画『沈まぬ太陽』、『笑う警官』に出演。2010年5月には『てぃだかんかん』の公開が控えている。

思いがけずこの世界に入って戸惑いばかりでした (松雪 泰子)

高校生のころは洋服が大好きで、販売員のアルバイトもしましたし、母にもらった古い服をくずして、ミシンで自分なりに直したりするのに熱中するような子だったんです。ですから将来の進路として考えていたのは、パリに留学してデザインの勉強をすること。頭の中にはそれしかありませんでした。

そんなある日、雑誌でMEN'S NON-NOのオーディションの広告を見かけて、友達とこんな話をしたんです。「もしかしてこれ、受かったらただで東京に行けるんじゃない?

プロのカメラマンやスタイリストの仕事を見ることができるってことじゃない?」と。そうなると興味がふくらんで応募をしていたんですが、気がついたら、多くの人にこの世界で仕事をしないかと誘われるようになっていました。 それまで芸能界で仕事をするなんて、これっぽっちも考えていなかった私にとって、不安ばかりのお誘いでずいぶん悩んだんですが、モノをクリエイトする現場への興味もあって、一生に一度だけのチャンスだと思ってやってみようかと決心したのがすべてのはじまりでした。

ただ、演技の訓練などしたことがないだけに、監督に「下手くそ!」と怒られても、何をどうすればいいかもわからない状態。それでも一度選んだ道でしたから頑張っていこうと決意して、俳優座の女優さんの養成所に行って発声や演技など、基礎的な勉強をさせていただくことになったんです。至らない生徒だったせいか先生にはかわいがられまして、カバン持ちをしながら、移動中の電車の中、出演しているドラマの台本の読み合わせをしていただいたり、とてもいい経験を積ませてもらいました。

舞台に出演して自分を解放することで、迷いがふっきれた (松雪 泰子)

そんな調子でしたから、演じるということが自分の仕事なんだと思えるようになるまでには、ずいぶん時間がかかりました。19歳でデビューして、20代はずっと暗中模索だったような気がします。

ただ、その中でもちょっとした手応えみたいなものはあって、1992年に『ジュニア・愛の関係』というドラマに出演したときには、自分なりにこう演じてみようとプランを立てて臨んだ撮影で、共演した橋爪功さんに「それ、いいね」とほめられたことはとてもうれしかったです。演技をするということはこういうことなんだと教えてもらったような気がしました。

それでも、自分が立てたプランにがんじがらめに縛られてしまい、自由な演技ができずに悩んだりすることもあって、迷える時期はまだまだ続きました。

2004年に『夜叉ヶ池』で初舞台を踏んだときは、そんな悩みのまっただ中のころでした。そのとき演出されたのが、私と同じく舞台初演出の三池崇史さんで、とにかく好きなように演じて下さいと言われたのが新鮮でした。無謀にも思いっきり自分をぶつけてみたのがよかったのか、自分を解放したことで、すごくいい経験ができました。感情と肉体をダイレクトに表現していく面白さ、そしてそれが日々変わることの面白さを体験しました。

その後も『吉原御免状』(05年)や『五右衛門ロック』(08年)と、劇団☆新感線の公演に呼んでいただいたときには、『夜叉ヶ池』とはまったく別のアプローチで舞台を作っていく課程に刺激を受けましたし、ミュージカル『キャバレー』(07年)に出演したときにも同様の感動がありました。

客席の数だけ視点がある。それが舞台の魅力 (松雪 泰子)

舞台というのは、お客さんの目の前で演じるだけに、反応がダイレクトに返ってきます。観てくださっている方の空気感のようなものは演じる側にも伝わりますし、同じセリフでも一瞬の間の違いで伝わるものが変わる。今回、『東京月光魔曲』で出演するBunkamuraシアターコクーンは、最大747の客席があるそうですが、テレビや映画と違って、役者と客席の間に747の視点があるというだけでこれはすごいことだと思うんです。しかも、その場にいた人の記憶の中でしか、それを再現できないという意味で、演じる側としても1回1回の公演すべてが貴重な体験です。

そういう意味でも、今回の公演は私にとって、とても楽しみです。ケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)の舞台は何度も観劇させていただいているんですけど、過去と現在と未来が入り交じりながら、最終的にはひとつのメッセージにまとまっていくその作風が大好きなんです。独特の気持ちよさがあって、私がその中でどのような役割を演じられるか、今からワクワクしています。

高校生のころは、洋服というひとつのモノをコツコツ作り上げることに熱中していた私ですが、こうしてこの仕事を続けられているのは、役を与えられるごとに新しい挑戦をさせてもらえる環境があるからなのかもしれません。きっと、自分の中ではこれからも模索が続いていくと思いますが、それもいいのかなと思えるのは、私にとっての成長なのかもしれません。

松雪 泰子さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:長年の夢だった洋服のデザイン。生地選びから、デザインの仕方まで勉強してみたり。細かい作業がとても楽しいです。
Q:落ち込んだときのパワーフードは?
A:ブルーベリー。目に効くとよく言われる果物ですが、精神的なものをクリアしてくれると聞いたのでよく食べています。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:小学生のとき、母親に連れられて田舎で観た無名塾の『マクベス』。体験したことのない世界に感動しました。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

演劇を観に行くとき、あらかじめその台本を読んで行ったり、その公演の前評判を耳にして行く方法もあると思うんですけど、私は逆に、フラットな気持ちで観たいと思います。どんな舞台でも、シートに座った瞬間、日常とはまったく別の空間が目の前に広がる快感がそこにはあると思うんです。『東京月光魔曲』でも、そんな気持ちで楽しんでもらえたらと思います。

これから演劇をしようと思っている人へ

何かを表現したいという人にとって、演じるというジャンルは、とてもハードルが高いと感じてらっしゃる方が多いのかもしれませんが、決してそんなことはないと思うんです。そういう人にとって大事なのは、まず行動を起こすということ。行動することによって、いろんな経験を積む機会が得られるんです。計算ずくで狙いを定めたりしなくても、行動することで始まることもあると思うんです。

松雪 泰子さんの次回公演情報

「東京月光魔曲」の画像画像を拡大する
Bunkamura20周年記念企画 「東京月光魔曲」

独自の世界観を駆使し、精力的に作品を生み出し続けているマルチクリエイター、ケラリーノ・サンドロヴィッチが、シアターコクーン09年・10年の年末年始を新作で飾る。活気と猥雑さに満ち溢れた震災後の昭和初期、モダン都市東京を舞台に、かの谷崎潤一郎氏も平伏すエロティシズム、名匠海野十三氏も驚愕する奇天烈さで描く、姉弟と探偵の胸躍る心理活劇!と銘打ち、日常と非日常、現実と非現実の相反した状態が同時に表すマジックリアリズムの世界を鮮やかに描きだす。キャストも主演の瑛太松雪泰子をはじめ、橋本さとし大倉孝二犬山イヌコ大鷹明良伊藤蘭山崎一ユースケ・サンタマリアとわくわくする顔ぶれだ。この絶好の機会を見逃すな!

2009年12月15日(火)~2010年1月10日(日)
Bunkamuraシアターコクーン
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取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK) スタイリスト/Die-co★ 衣装協力/(シネクァノン)ストックマン

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