高校2年生くらいのとき、父(武道家の風間健氏)と進路について話し合う機会があったんです。
僕は普通の仕事をしたいと思っていて、デパートの店員になろうと考えていたんですが、父はこう言ったんです。「お前のように、普通のこともできない人間に普通の仕事なんかできないんじゃないか? もう一度、やりたいことを考えてみろ」と。
言われるままに考えてみましたが、何も出てこない。そこで、「礼儀に厳しいところだから、そこで修業してこい」と、父の知人の芸能事務所を紹介してもらったのがこの仕事に入るきっかけでした。
だから、デビューから主演映画に起用され、あれよあれよという間に物事が転がり始めたときは、自分でも何がなんだかわからない状態でした。それでも、父に言われた通り、仕事を一つひとつ、命がけでこなしていくうちに日々が過ぎていきました。
俳優を長く続けていくにあたって大切なのは、人を思いやる気持ちだと僕は思います。役を演じるには、その登場人物の気持ちや境遇を理解しないと表現できませんよね。ただ台本通りにセリフを読むだけでは、演技は成立しません。
実際、そういう人を思いやる気持ちが自分にあるのかどうかよくわかりませんが、今の僕を作っているのは、小さいころから厳しく育ててくれた父と、優しかった母のおかげ。僕がここまで俳優を続けられたことは両親のおかげだとも言えるでしょう。感謝しなければならないですね。
初めて舞台に出演したのは、デビューして7年目。カメラの前で演技をするのと、舞台の上でお客さんの目の前で演技をするのとでは違うといいますが、その違いをそれほど意識したことはないです。
デビュー作の『バタアシ金魚』で僕を鍛えてくれた松岡(錠司)監督は、カメラを回す前にみっちりリハーサルをする方でしたから、長い稽古期間があるという状況を受け入れられたのかもしれません。
また、舞台に出演することで、多くの方と出会い、多くの貴重な経験をさせていただいて、それはとても光栄なことだと思っています。
中でも三谷(幸喜)さんとの出会いは僕にとっては大きいです。きっかけは、テレビドラマの『王様のレストラン』なんですが、この話をいただいたときに東京サンシャインボーイズの『罠』を観たんです。衝撃でした。新宿のTHEATER/TOPSで行われたこの劇団の最終公演を観たことは、僕の人生の中でも自慢できることのひとつ。とにかく腹の底から笑わされて。観客としてこれ以上ないほど楽しませてもらっただけではなく、俳優としても「こういう芝居をしたい」と思わせてくれるものでした。
それまでの僕は、父の影響かもしれませんが、仕事にある種の厳しさを求めていて、「自分を成長させてくれるものはなんだろう」と考えながら仕事をしていました。ところが、そういうことを考える必要がないくらい、心から楽しんでいいんだなって、そう思わせてくれたのが三谷さんでした。
『王様のレストラン』のあとには『総理と呼ばないで』に起用していただき、その後はパルコ劇場での『彦馬がゆく』(2002年1月~2月)と『12人の優しい日本人』(2005年12月~2006年1月)に出演することができました。
三谷さんの作品はどれも演じていて本当に楽しいんですが、脚本の完成度が高いので、その面白さをキチンと伝えないといけないというプレッシャーもあるんです。だから、お客さんからいい反応があったときは、本当に大きな達成感があります。
今回、『十二人の怒れる男』に起用されたときは、三谷さんの『12人の優しい日本人』に出演したときを思い出しました。今回の舞台では陪審員5号を演じるのですが、三谷さんの舞台で演じた陪審員4号の感覚がまだ少し残っていて。稽古中に「あ、ここは面白くしなくていいんだ」なんて思い直したりして(笑)。
でも、今回の『十二人の怒れる男』はすごい顔ぶれで、とてもわくわくしています。オリジナルの映画は、大好きな映画ですし、12人の男たちが人間性をかけてぶつかり合う芝居は見応え充分だと思います。
演じる僕自身も、きっと楽しみながら演じられるんじゃないかと思っています。仕事を100%楽しむって、なかなか難しいことですけど、いつか心からそう思えるようになるのが目標です。
- Bunkamura20周年記念企画 「十二人の怒れる男」
「人が人を裁くことの難しさ」を問いかける密室劇の傑作、『十二人の怒れる男』。1957年、シドニー・ルメット監督、ヘンリー・フォンダ主演で映画化され、第7回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した名作が、裁判員制度が始まった2009年の日本で再現される。演出は巨匠、蜷川幸雄。キャストには、蜷川と待望の初顔合わせとなる中井貴一をはじめ、筒井道隆、辻萬長、田中要次、斎藤洋介、西岡德馬ほか、頼もしい実力派俳優たちが集結する。作品の時間経過と観賞時間が同じという徹底したリアリティさがも見どころの1つで、あたかも「自分が討論に参加しているのでは...」、と思わせてくれる手に汗握るスリルを劇場で体感しよう。
2009年11月17日(火)~12月6日(日) Bunkamuraシアターコクーン
取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)











