【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.87】仲村 トオル『初舞台のカーテンコールで拍手を浴びたときの感動は、今でも忘れられない』(掲載開始日:2009年11月12日)

仲村 トオル(なかむら・とおる)
1965年9月5日東京都生まれ。大学在学中の85年の映画『ビー・バップ・ハイスクール』で主演デビュー。86年、TVドラマ『あぶない刑事』に出演。02年、韓国映画『ロスト・メモリーズ』で大鐘賞映画祭最優秀男優助演賞を外国人として初受賞。09年には映画『劒岳 点の記』(監督・木村大作)に出演した他、11月には舞台『フロスト/ニクソン』で名優北大路欣也と共演する。

俳優デビューしてすぐ、もの作りの楽しさに魅了された (仲村 トオル)

小さいころから野球選手になりたかったんですけど、どうやらそれほどの才能が自分にはないんだってことがわかってからの高校3年間は、何に対しても頑張ることのない無気力な日々でした。

そこで、大学の4年間で何とか自分に向いてる道を探そうと思って進学した矢先に父親が亡くなりまして、数々のバイトをしながら「一生の仕事」と思えるような道を探す毎日が始まりました。そんなタイムリミットを感じながらの大学生活の中、映画『ビー・バップ・ハイスクール』の主演オーディションの情報を見つけて、バイトに応募するような感覚で受けたのがすべての始まりです。

だけど、いざ「採用」となってカメラの前で演技をするようになると、映画を作る現場は思った以上に楽しかったんです。ダメ出しをされることも多かったけど、ワンカットごとに監督から「オッケー!」という掛け声をいただく快感と、大勢のスタッフと一緒にひとつの作品を作り上げていくことに強い興味を感じたんですね。

とはいえ、俳優としての訓練も受けないまま、この世界でちゃんとやっていけるはずはないという気持ちは持ってました。映画がヒットしてシリーズ化され、テレビドラマ『あぶない刑事』の仕事につながっていい風が吹いていても、「こんなはずはない。謙虚さを忘れちゃいけない」と、どこかで自分を戒めていました。

ただ、つい先日ですけど、館ひろしさんと柴田恭兵さんに久しぶりに再会する機会がありまして、思い出話の中で「僕がおふたりを追い抜くのは時間の問題だと思ってます、なんて発言していたことでもわかる通り、当時の自分はそうとう舞い上がっていたと思うんです」と言ったんです。そのときおふたりに、「今はとっくに抜いたと思ってんじゃない?」と返されて、「そんな風にはぜんぜん思えないです」って、これは本心から正直に答えました(笑)。

30歳を過ぎてやっと、いろんな経験を楽しめるようになった (仲村 トオル)

30代を目前にしたころに萩原健一さんと共演して、いろいろ話をしたんです。「オレが30歳のころはまっ裸にされて太平洋に放り出されるような感じだったよ」なんて話を聞いて、「そのときどうしたんですか?」と聞いたら、返ってきた答えが「泳ぐの、やめたんだよ」って。その言葉にならうように僕自身、30歳を過ぎたころにはいろんなことを受け入れるようになっていました。

ああいうことをしたい、あんな風になっていたいという願望を持ちながらも、流れにまかせていろんな現場を渡り歩いて、そこで経験することを自然に吸収していくことの楽しさを知ったんですね。

韓国映画『ロスト・メモリーズ』に出演したときは、その意味でもカルチャーショックの連続で。でも、「それでは韓国のお客さんに伝わらない。もっと大きく演じてくれ」と言われれば、「なるほど、そうなのか」と素直に思えたし、それまで培ってきた自分なりの演技の仕方をあえて捨ててみるという、新鮮な体験をさせてもらいました。

2004年に日生劇場の『羅生門~女たちのまぼろし~ 』で初舞台を踏んだときも、大きな手応えがありました。このときは、テレビで何度か仕事をさせていただいたディレクターの星田良子さんが初の舞台演出をするということで声をかけていただいたんですが、稽古の段階から戸惑いの連続でした。というのも、カメラの前で演技をするときは、シーンごとに自分がやるべきことをきっちり固めておかないと演技に一貫性がなくなってしまうんですが、舞台の稽古では、一度固めたイメージを何度も壊すことができるんですよね。最初のころは、「その指示、昨日言ってたこととまったく違うじゃないですか」って、演出を止めて議論をはじめてしまうことがあったんですが、実はそれが舞台の醍醐味だってことに気づいてからは、稽古場に通うのがすごく楽しくなったんです。

偉大な大先輩との共演を前に大きな意気込みを感じています (仲村 トオル)

初日の舞台に立った日のことは、今でも鮮明に覚えています。まず、目の前のお客さんの前に立って演技をすることのプレッシャーはさることながら、演じ終えて拍手を浴びたときの達成感、到達感は忘れられません。実は、カーテンコールの時点で、ウルッとくるものさえありまして、「いかん、いかん。この公演はまだ1カ月続くんだから、初日でこんな気持ちでは最後まで持たないぞ」って自分を戒めて、やっとのことで涙をこらえたくらい(笑)。

実は、俳優の仕事を始めたころから舞台に立ってみたいという願いはずっとあったんですが、なかなかその縁に恵まれず、この経験を得てやっと俳優として地に足がついたかなと思えるようになりました。だから、その後も舞台の仕事を定期的にできているというのは、僕にとってはとてもうれしいことです。

今回の『フロスト/ニクソン』で、憧れの北大路欣也さんと真向から対峙して共演するというのも身に余る光栄だと思っています。

映画『劒岳 点の記』に出演したとき、山の上のロケの毎日で、夜になると木村大作監督から北大路さんの俳優としてのすごさを聞かせていただいたんです。例えば映画『八甲田山』で、出番がない日も衣装を着て雪深い山道を歩いていたり、死の場面でも棺の前で長ゼリフを読む高倉健さんのために、朝から何時間も棺に横たわっていたという逸話を聞くにつれ、すごい役者なんだなぁと。そして、映画の撮影を終えて山を降りたタイミングで、この舞台出演の話を聞いたので是非フロストをやりたいと立候補しました。

『フロスト/ニクソン』のアメリカ版の劇評には「言葉のボクシング」と書かれていたそうですが、偉大な北大路さんを相手に僕がどれだけ健闘できるか、ご期待ください。

仲村 トオルさんへQ&A

Q:お休みの日の過ごし方は?
A:掃除好きなんです。いつも部屋が散らかっているみたいに思われると困りますが、掃除の快感って、確実にありますよね。
Q:最近、面白かった本は?
A:伊坂幸太郎さんの『砂漠』は、面白かったです。伊坂作品は、どれも読み終わったときの気持ちよさがたまらないですね。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:初めてというと語弊がありますが、長塚京三さんが心血を注いで上演された『エンバース~燃え尽きぬものら~』には、心を打たれました。尊敬します。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

舞台に出演すると、お客さんのアンケートを読むのがとても楽しみなんですが、そこに「舞台は日常の延長線上にある」と書かれた方がいらっしゃって、とても素敵なことだなと思ったんです。楽しいことがあった日のお客さんの気分、辛いことがあった日のお客さんの気分が客席の雰囲気を作っていて、それが演じる俳優にも確実に伝わってきますからね。そんな舞台と客席のコミュニケーションも楽しめるのが、舞台の醍醐味だと思います。

これから演劇をしようと思っている人へ

俳優という仕事は、生涯現役でいられる職業だと僕は思っています。どんなに辛いことがあっても、あきらめない限りは俳優でい続けることができるんです。ある芝居の台本の、こんなセリフを思い出します。「『あきらめるな』なんて言わないよ。あきらめればあきらめるほど、どうしてもあきらめられないものが残るんだから」。

仲村 トオルさんの次回公演情報

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「フロスト/ニクソン」

フランク・ランジェラ、マイケル・シーンで、06年にロンドンで初演され、同キャストで制作された米映画版が08年度米アカデミー賞5部門にノミネートされた話題作『フロスト/ニクソン』が日本初上演される。ニクソンに扮するのは、名優北大路欣也、対するフロストには仲村トオルが挑む。演出・上演台本を担当する鈴木勝秀の手腕も見ものだ。この大舞台を見逃すな!

東京公演 名古屋公演
2009年11月18日(水)~12月5日(土) 2009年12月9日(水)
天王洲 銀河劇場 名鉄ホール
大阪公演 仙台公演
2009年12月12日(土)~13日(日) 2009年12月17日(木)~18日(金)
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ イズミティ21(仙台市泉文化創造センター) 大ホール
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取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)

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