【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.76】安田 顕『北海道生まれ。地元意識が起点ですが、それを大げさに強調したくはない』(掲載開始日:2009年8月27日)

安田 顕(やすだ・けん)
1973年12月8日生まれ。北海道室蘭市出身。北海学園大学在学中、演劇活動を開始。96年、森崎博之大泉洋佐藤重幸音尾琢真とともに演劇ユニットTEAM NACSを結成。2008年に出演したNHK連続テレビ小説『瞳』では、祭りをこよなく愛す江戸っ子・石田勇蔵役を好演し、お茶の間の顔として浸透した。現在「コールセンターの恋人」(テレビ朝日系)に出演中。また今秋、映画「大洗にも星はふるなり」公開も予定されている。

大学では、楽しそうな居場所を求めて演劇に出会ったようなもの (安田 顕)

室蘭という町から札幌の大学に進学したんですが、最初に目を向けたのは、演劇研究会ではなくてジャズ研究会なんです。

僕としては、ウッドベースを弾けるようになるとカッコいいじゃないかと思っていたんですが、あまりのレベルの高さに恐れをなしまして。その後、勧誘されてグリークラブに所属することになったんです。ところが、先輩の部屋に連れていってもらったとき、壁に穴があいていて、「この間、酔っぱらったついでにあけちゃったんだ」という話にまた恐れをなしまして、今度は「就職に強い」というふれ込みにつられてESSの門を叩くわけです。ただ、ここでもやはり、なじめないものを感じて「辞めようかな」と悩んでいた矢先、学園祭の模擬店で演劇研究会が隣でタンゴ屋をやっていまして、「楽しそうだなぁ」と思ってそこに移るわけです。

要するに、楽しそうな居場所を求めて演劇に出会ったようなもので、それほど真面目に活動していたわけではないんです。いちおう、発声練習くらいはやってましたけど、最初に出た舞台では、お客さんより役者のほうが多いくらいでしたからね。

そんなとき、札幌に当時、東京から第三舞台などの劇団がやってきて公演をやるような本多小劇場という小屋がありまして。で、そこで地元のOOPARTSという劇団が公演をやっていて、それがとても面白いという話を学生服のバイト先の先輩に教えられて観に行ったんです。確かに映像を取り入れたり、斬新な芝居をやっていてショックを受けまして、その後、ずっとつき合うことになる主宰の鈴井貴之のもとを訪ねて、1998年の劇団解散までの5年間、活動をともにすることになるんです。

いったん就職した職場を離れて、再び劇団活動を再開 (安田 顕)

OOPARTSは、僕が所属した時点で北海道の演劇シーンを牽引するような存在でしたけど、僕の目から見ると、200万人都市と言える札幌の中でムーブメントを起こしていたかというと、疑問が残ります。もちろん、札幌に東京の下北沢みたいな演劇のメッカがあったら素敵だなという思いは当時、いろんな人が持っていたでしょうし、今の僕もそう思っていますが、そう思っていること自体、今がそういう状況でないことの証拠ですよね(笑)。

だから当然、仲のよかった仲間とTEAM NACSを結成したときも、それでプロになるという意識はまったくなくて、1回限りの公演で解散して、僕は就職活動をして医療事務の職に就くんです。

ところが、思い出というのは美化されていくもので、TEAM NACSの結成&解散公演で、地雷のように笑いが起こっていた3日間がどうしても忘れられないんですね。もちろん、そのときの公演ビデオを観れば、その盛り上がりが単なる思いこみに過ぎなかったということがよくあることは承知の上で、僕はあえてビデオを観ることはしませんでした(今も思い出を美化するにまかせています)。

当然、仕事の合間をぬって劇団活動は続けていましたから、8ヵ月後には辞表を書いて、東京の仕事を辞めて故郷に帰ってきた森崎(博之)らとTEAM NACSを再結成させることになるんです。

そこからは北海道を拠点に、「次はどのホールをいっぱいにしよう」といった目標に向かって一直線で、非常にエキサイティングな毎日でした。北海道ローカルながらもテレビに出始めたのも同じ時期で、公演を打つたび、お客さんが倍に増えていったときの興奮は、忘れられない思い出として僕の中にはありますね。

初の東京公演は、達成感とともに、大きな目標を与えられた (安田 顕)

ただ、劇団が昇り調子のときはとても楽しいんですけど、その盛り上がりがある程度続いていくと、「ここから先は、ルーティンワークになっていくのかな」と、漠然と感じてしまう時期があるんですよ。実際、TEAM NACSにも、そういう時期があったと、僕は感じています。

それを打ち破ってくれたきっかけが2004年の第10回公演『LOOSER~失い続けてしまうアルバム~』で、札幌での本公演とは別に、初めて東京で公演をしたんです。

充実感と大きな達成感があったと同時に、「もっと大きな器に自分を移し替えてみたい」と思えたことは大きな収穫でした。

目指す器が大きくなれば、挑むハードルも高くなっていきます。その最たるものが、今回、草刈民代さんとの『宮城野』にオファーをいただいたことだとも言えるでしょう。お誘いいただいたときは、ドッキリかと思いましたが(笑)、今は、同じ舞台の上に立つ役者として、自分を磨かねばと思っています。とにかく、命がけでこの舞台に臨むつもりです。

そうはいっても、北海道に対する思いは、つねに僕の中にあります。こうしたチャンスをいただくようになるにつれ、その思いはますます強くなっています。故郷のことを客観的に見る機会が増えるとともに、自分の中の北海道人としての感性を大事にしたいと思うようになっていったんです。雪を見たとき、ただ「わぁ、きれいだな」と思うのではなく、「また雪の季節か」と多少うんざりしているうちは、まぁ、大丈夫だと思えます(笑)。

ただ、あまり大げさに「北海道!北海道!」と強調したくはありません。あまり声高にアピールすると、せっかくの本音も、なんだか胡散くさく思えてきちゃう。まずは、自分がもっと成長してからじゃないと、こっ恥ずかしくてね(笑)。

安田 顕さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:ホッピーの黒と麦焼酎ソーダ割。ここ2年はこればかり。共通しているのは「まわりが早い」ってこと(笑)。
Q:落ち込んだときのパワーフードは?
A:ホタルイカの沖漬け。これを食べるとますます酒量が進むので困ってもいるんですけどね(笑)。でも、とってもおいしいです。
Q:もし俳優になっていなかったら?
A:小さいころは歯医者さん。あと、新聞記者とか、雑誌の編集部で働きたいと思っていた時期もあります。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

演劇っていうと、何か気合いを入れて「よし、観るぞ!」みたいな雰囲気がありますけど、そんな窮屈な気持ちになることはないと思います。気心の知れた友達と気楽に観にいって、帰りにビールを酌み交わして、昔話とか世間話で盛り上がる。そんな気持ちで劇場に足を運んでちょうどいいのではないでしょうか。

これから演劇をしようと思っている人へ

僕は、運だけでここまで来ました。これからもっともっと羽ばたいていくには、たくさんの運が必要でしょう。そのときに必要なのは、新しい人との出会い。これは、大事にしていきたいですね。親元を離れてからは、人との出会いが自分をつくりますから。重要な出会いというのは、そのときにはわからないものですよね。大学の演劇研究会の2年先輩の森崎(博之)さんにしても、OOPARTSの鈴井(貴之)さんのときも、最初は予感なんて少しもありませんでしたから。

安田 顕さんの次回公演情報

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「宮城野」

2009年4月、35年のバレリーナ人生に終止符を打った草刈民代が、女優に転身。その記念すべき舞台に選んだのは、実力が問われる2人芝居、矢代静一による名作『宮城野』。江戸時代色街を舞台に、女郎・宮城野と、東洲斎写楽を殺害したニセ絵師・矢太郎との情愛を描く妖艶な物語だ。相手役に指名されたのは、演劇ユニットTEAM NACS安田顕。果たして、どんなドラマチックな舞台になるのか、乞うご期待!

東京公演 大阪公演
2009年9月17日(木) ~ 23日(水・祝) 2009年9月26日(土) ~ 27日(日)
草月ホール シアターBRAVA!
名古屋公演 札幌公演
2009年9月29日(火)・30日(水) 2009年10月5日(月)~7日(水)
名鉄ホール 札幌共済ホール
東京追加公演
2009年10月10日(土)・11日(日)
東京グローブ座
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取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)

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