【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.73】安蘭 けい『「運も実力のうち」というけど、私は努力の大切さを信じたい』(掲載開始日:2009年8月6日)

安蘭 けい(あらん・けい)
1991年、宝塚歌劇団に主席で入団し、同年3月『ベルサイユのばら』で初舞台を踏む。翌年、雪組に配属され、2000年に星組へ組替え。03年にはオペラ『アイーダ』を題材にした『王家に捧ぐ歌』で男役スターながら女役のアイーダ役で見事なソプラノを聴かせて絶賛された。06年12月、主演男役に就任。09年4月、退団となる。そしてこの夏、女優デビュー第1作にThe Musical『AIDAアイーダ』が上演される。

3度の受験失敗、組替えのプレッシャーが私を鍛えてくれた (安蘭 けい)

滋賀県の田舎育ちだったので、娯楽といえばテレビくらいで、幼稚園児童のころからピンクレディーにあこがれて「歌手になりたい!」と思っていました。劇団四季の『キャッツ』を家族で観たときは、「舞台の上に立ちたい」と思うようになり、当時、習っていたバレエ教室の先生の言葉で宝塚を知って宝塚音楽学校を受験することになるんです。

1989年に入学して、91年に宝塚歌劇団に入団。よく、「首席で入団」と言っていただくことがありますけど私の場合、受験のときに3度も落ちているので、日本舞踊にモダンダンス、タップダンス、歌唱指導など、いろんな教科を器用にこなすことができたのかもしれません。失敗が逆に、私を鍛えてくれていたんですね。

もちろん一方では、それが単なる器用貧乏に過ぎず、「私が本当に得意なものは何なんだろう」と悩んだこともありました。

心身ともに、自分に自信を持てるようになったのは、宝塚に入団してそろそろ10年がたとうとしたころでした。ずいぶん時間がかかりましたね(笑)。実はちょうどそのころ、私は雪組から星組に組替えになるんです。

すごく楽しくて、居心地がよくて、気心知れた雪組の仲間と離れ、星組という新しい場で活動するということは、大きなプレッシャーでした。でもそこで、それまでの男役像を捨てて、新たなやり方に挑戦しようと思えたことで世界がパァーッと開けたんですね。このときもやはり、困難が私を鍛えてくれたんです。

心からの達成感を感じたとき、「退団」を決意 (安蘭 けい)

舞台には、ある特別の魅力があって、気分が落ち込んでいたり、体調が万全でないときでも、舞台に立った途端にすべてを忘れてしまうんです。舞台に目を注ぐお客さんの熱気が私を元気にしてくれるんですね。辛さや苦しさを乗り越えて、宝塚の舞台を踏み続けてこれたのは、そのおかげだと思っています。

2003年、名作オペラ『アイーダ』を原作にした『王家に捧ぐ歌』という作品に出会ったときも、大いに元気づけられました。

実はこのときの私は、しばらくトップ役の下の2番手に甘んじて悩んでいた時期で、しかも私が起用されたのが男役でなく女役のアイーダということもあって、演じる自信がまったく持てなかったんです。実際、演技の仕方も180度違えば、歌もソプラノの高いキーでうたわなくてはならないので大変な役でした。

それだけに、普段の生活から節制してこの役に臨み、すべての公演を無事に終えたときには特別の達成感がありました。

念願のトップになることができたのは、2006年。このときも、「やっとこの日が来たのか」という達成感でいっぱいで、実際、一作で引退しても悔いはないと思っていたくらい。

それでも、トップとして舞台に立ってみると、それは決して目指していたゴールではなくて、作を追うごとに自分への課題が見えてきて。本当の意味で「やりきった」と感じられたのは、2008年にブロードウェイ作品の『スカーレット・ピンパーネル』の日本初演を果たしたときでした。

退団後の新たな挑戦に今は心をときめかせています (安蘭 けい)

心から「やりきった」という実感を持てたからこそ、退団を決意することができたわけですが、こうしてふり返ってみると、宝塚入団からいろいろなターニングポイントがありました。

チャンスに恵まれずに、悩んだことも数知れず。

よく、「運も実力のうち」と言いますけど、私はこの言葉、あまり好きではないんです。もしそれが本当なら、いくら努力しても、運に見放されてむくわれない人がいるってことじゃないですか。私は、そうではないと信じたい。事実、辛いこと悲しいことがあっても、それを乗り越え、努力し続けてきたことで私は仲間やお客さんからたくさんの元気をいただいたし、そうして舞台に上り続けてきたからこそ、チャンスを得ることができたんだと思うんです。

今回、退団後の女優デビュー第一作としてThe Musical『AIDAアイーダ』~宝塚歌劇『王家に捧ぐ歌』より~を演じられるのも、私にとってはビッグチャンスです。

もちろん、宝塚時代に演じた通りのやり方では通用しないだろうし、この役をつとめるのは簡単にはいかないでしょう。闘うことの虚しさというテーマに加えて、愛に生きるアイーダという女性の生き様が今回はクローズアップされているだけに、主役としての責任は重大です。さらに、共演者がアムネリス役のANZAさんを除いてほとんどが男性という点でも、私にとっては新しい体験です。

でも今は、その挑戦に自分がどこまで応えられるのか、それを確かめるのが楽しみで仕方ないんです。

安蘭 けいさんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:自転車で東京の街を散策するのが楽しいです。宝塚にいたころには考えられないくらい自由で豊かな時間です。
Q:最近、面白かった本は?
A:山崎豊子さんの『大地の子』。中国ものが好きで、浅田次郎さんの『蒼穹の昴』も面白く読みました。
Q:もし女優になっていなかったら?
A:やはり、子供のころの夢だった歌手を目指していたでしょう。もしかしたら、演歌の世界で活躍していたかも...。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

私は、これから観るお芝居は、できるだけ先入観を持たないようにしています。舞台の上で起こっていることに集中して、自分なりの感性で楽しみたいんですね。テレビを観るのも私は大好きですけど、舞台はテレビと違って、「参加している」という感じ。その熱気は必ず役者さんたちにも伝わって、舞台をより面白くしてくれる。それが演劇の醍醐味だと思います。

これから演劇をしようと思っている人へ

とにかく私の場合、舞台に立つことができるという喜びのおかげでここまでやってきました。それがすべての情熱の源泉。そのことを忘れてしまいそうになったときは、初舞台を踏んだときの気持ち、支えてくれた仲間の存在、今まで自分が歩いてきた道のりをふり返ってみてはいかがでしょうか。そこには必ず、何らかの答えがあるはずです。

安蘭 けいさんの次回公演情報

「AIDA アイーダ ~宝塚歌劇『王家に捧ぐ歌』より~」の画像画像を拡大する
The Musical 「AIDA アイーダ ~宝塚歌劇『王家に捧ぐ歌』より~」

2003年、ヴェルディの名作オペラ『アイーダ』を原作に宝塚歌劇団星組が上演した『王家に捧ぐ歌』。エチオピアの王女アイーダ役を当時二番手男役スターだった安蘭けいが挑み、松尾芸能賞演劇新人賞を現役のタカラジェンヌとして初受賞して注目を浴びた。そして、その安蘭けいが宝塚退団後、女優デビュー第1作として再びこの作品と出会う。共演は、『エリザベート』の皇太子ルドルフ役をはじめ、活躍めざましい伊礼彼方をはじめ、パワフルなボーカルで知られるANZA光枝明彦沢木順宮川浩林アキラら強力な役者陣が脇を固める。愛と平和という壮大なテーマで描く、傑作ミュージカルにご期待あれ!

東京公演 大阪公演
2009年8月29日(土)~9月13日(日) 2009年9月18日(金)~10月4日(日)
東京国際フォーラム・ホールC 梅田芸術劇場・メインホール
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/松谷祐増(TFK)

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