特に「これ」というきっかけはないんですけど、ものごころついたころからディズニーの映画やエンターテインメント作品を観ることが大好きで、風邪で学校を休んだ日は本当は寝ていないといけないのに、内緒で映画のビデオを観たりするような子供だったんです。小学生になるころにはもう、「役者になりたい」と自然に思っていました。
もちろん、両親の影響も少しはあったと思いますが、「大学を卒業するまで、学業を優先しなさい」ということ厳しく言われていました。
実は、少しでも早く一歩を踏み出したくて、家を出てしまおうかなんてことも考えたこともあったんです。ところが、家出をしたところで、役者を目指す先には両親がいるわけで、そこから逃げるわけにはいきませんよね。仕方なく、大学卒業をジリジリと待ち続けることにしました。そのかわり、大学では演劇学の勉強をしたり、たくさんの映画や舞台を観たり、できるだけ芝居にふれていた気がします。
無事、大学を卒業できた日は、うれしかったですね。これでやっと、好きなことに挑戦できるんだって、目の前の世界がバーッと開けたような気がしました。
もちろん、それはゴールではなく、あくまでスタートに過ぎなくて、それから先は決して楽な道のりではないだろうと覚悟をしていました。きっとたくさん苦しい思いをするだろうし、悔しい思いもするだろうと。
そして、予想通りになりました。
大学を卒業して2ヶ月後に受けたのが、NHK大河ドラマ『風林火山』のオーディション。まったく経験のない私がヒロインの由布姫役に抜擢されるなんてないだろうと、半信半疑で受けたオーディションだっただけに、受かったと聞いたときは本当に信じられない気持ちでした。
ほぼ1年という長い間、ひとつの役を演じるというだけでも大変なのに、着物を着ての所作を身につけるのもひと苦労でした。当時の私にとっては高い高いハードルで、すごい重圧を感じていました。
その一方で、衣装さんに帯をキュッと締めてもらう瞬間、気持ちのいい緊張感の中で、由布姫が自分の中に降りてくるような感覚を味わうこともでき、この役をいただいたことはとても大きな勉強になりました。死にものぐるいで、無我夢中の毎日でしたけど、幸せでした。
役を演じるというのは本当に奥の深い世界で、ごまかしが効かないということを私はこの経験で学びました。役者にとって、カメラやお客さんの前に立ったときだけが本番なのではなくて、役に近づくためにいろいろなことを勉強するのが大事なことはもちろん、それまで自分が経験してきた人生の引き出しを開けることが求められるんですね。しかも私の場合、その引き出しの中に入っているものが本当にわずかしかないんだなぁということをいつも感じさせられます。
おいしいものを食べて「おいしい」と感じることも大事なことのひとつで、つまり、自分の感情の振り幅を広げることがいい演技につながるんだろうなぁと、最近では考えるようになりました。
2009年の5月には、新国立劇場の『タトゥー』(共演・吹越満)という作品で初舞台を踏んだんですが、これは私にとってとても貴重な体験でした。
私は、役が自分に落ちてくるまで、すごく時間がかかるタイプなんですが、1ヶ月もの稽古期間で、試行錯誤しながらそれをじっくり作り込んでいく作業は、とても贅沢だなと思いました。カメラの前で演技をするのと比べて、舞台の場合はお客さんの反応がそのまま返ってくるというのも新鮮で、これがエンターテインメントの原点なんだなと感じさせられましたね。
今回の『怪談 牡丹燈籠』も、きっと貴重な体験になるでしょう。私が演じるのは、瑛太さん扮する新三郎に恋焦がれるあまり命を落とし、幽霊となって彼のもとに通う、お露という旗本の娘の役なんですが、彼女の恋心をどこまで演じられるか、これは大きなハードルです。
最初の場面で、お露が草履を履いて縁側から外に出るシーンがあるんですが、初めての稽古で演出のいのうえ(ひでのり)さんから「その履き方じゃ、『スイカができたよー』って言ってるみたいだよ」なんて注意されたんですよ。
歌舞伎を観に行ったときも、女形の役者さんたちの足の動きを目で追ってしまうんです。今はそんな風に、頭の上に太いアンテナを立てて、役のために参考になることはすべて吸収しようと気を張り詰めている毎日です。
おそらく、今まで経験したことのないような体験が待っていることは間違いないでしょう。でも、そうやって新しいことに挑戦させてもらえることは、とても幸せなことだと思っています。
取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)











