【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.70】キムラ 緑子『人生の寄り道のつもりがいつの間にか演劇から抜け出せなくなっていました』(掲載開始日:2009年7月16日)

キムラ 緑子(きむら・みどりこ)
10月15日生まれ、兵庫県出身。1984年、劇団M.O.P.の旗揚げに参加。以後、看板女優として『HAPPY MAN』、『ちゃっかり八兵衛』、『KANOKO』、『ジンジャーブレッド・レディはなぜアル中になったか』などに出演。テレビ、映画、外部公演にも積極的に活動している。十三夜会賞・個人賞(93年)、第32回紀伊國屋演劇賞個人賞(97年)、第12回読売演劇大賞優秀女優賞(2005年)など受賞歴多数。

大学卒業後は、結婚して幸せな主婦になろうと思ってた (キムラ 緑子)

大学に入学した最初の年のこと、演劇好きの友達がいて、演劇部のリハーサルを観に行くというのでついていったんです。

そこにいたのが、学生時代のマキノ(ノゾミ)。彼にも学生時代があったんです(笑)。当時は本当にきれいな(?)男の人でしたよ。

それで、淡路島の田舎で育った私には、そのリハーサル風景がとてもショックだったんです。演劇というものの熱気に打たれてしまったんですね。すぐに入団を志願して、以後20数年、演劇の世界に身を置くことになるわけです。

でも私は、自分から「こういう役をやりたい」とか「あんな女優になりたい」と思ったことはほとんどなく、ただ与えられた役をこなすだけでいつも精いっぱい。マキノが学生演劇を卒業して劇団M.O.P.を旗揚げしたときも特別な意識の変化はなくて、ただ周囲の流れに従ってきたという感じなんです。

だから、大学を卒業してからは劇団を離れ、故郷に帰って学習塾に就職して講師をやっていたんです。いずれ誰かと結婚して子供をもうけ、幸せな家庭を築きたいなと、多くの女性が願うような幸せを夢みていました。

ところが、帰郷して3年後のこと。劇団から一本の電話がかかってきたんです。「本番前に女優がひとり失踪してしまった。悪いけど、代役を頼めないか」と言われたのが運のつき(笑)。「1本だけね」という約束で公演に参加したものの、塾の授業も区切りがよかったので退職して、そのまま劇団に復帰することになったんです。

いろいろな人物の人生を生きることができるのが役者の醍醐味 (キムラ 緑子)

それでも、劇団に復帰したのは、ちょっとした人生の寄り道のつもりで、いざとなればまた故郷に帰って塾の先生になればいいやと思っていました。

ところが、それまでつかこうへいさんの芝居をやっていた劇団がオリジナルの芝居に挑戦するようになって、毎日がドキドキ楽しかったからでしょう。いつの間にか私も夢中になっていました。それから、『ピスケン』という作品を上演していたころにマキノと結婚したこともあって、もう抜け出せないぞという感じ。

私は役者としてはすごく不器用なタイプで、毎回、与えられた役を作るのに人一倍の時間がかかるんです。作っては壊し、作っては壊しやっているうち、何がいいのかわからなくなってフリダシに戻ったり、そうかと思えばとんでもない方向にすっ飛んでいったり。

気心の知れた劇団の仲間たちは、そんな私のやり方を知っているから「また始まった」みたいな目で見てくれていますけど、外部公演では余計な心配をかけてしまうこともあるようです。でも、それが私のやり方なんですね。1本1本の公演で、そうやって無我夢中でやってきたから、それほど大きなターニングポイントはなかったようにも思えるし、逆に言えば、公演ごとに変わってきたとも言えるかもしれません。

演じることで、いろんな人物の人生を生きることができるのが役者の醍醐味です。舞台の上でいい人生を生きることができれば、たとえ実生活でシケた人生しか生きられなくてもいい。いつしかそんな風に思うようになって、今に至っています。

劇団解散後に何をするか?まったく考えていませんね (キムラ 緑子)

2008年、劇団がそろそろ25年目になろうというとき、稽古場でマキノが「あと3回の公演で解散する」と宣言したのは、自然な流れだったように思います。

もちろん、そのまま続けるという選択肢もあったとは思います。「マキノノゾミが死ぬまで」とか、「役者たちが年をとって体が動かなくなるまで」とか。でも、劇団員の中でマキノの言葉に反対した人は、ひとりもいませんでしたし、「あと3回」と決めることで何ができるんだろうって、みんながそのことに挑戦したくてワクワクしている空気を感じました。

実際、私自身も、カウントダウン公演第1回の『阿片と拳銃』を終えて、ここ数年で味わったことのない充実感を味わえました。

今回の『リボルバー』は、そういう意味でとても楽しみ。

題材は、思い出の『ピスケン』に似た雰囲気を感じさせるものなんですが、きっと今でしかできない新しい作品になっているはずです。

「あと3回」から「あと2回」になってしまったと思うとグッときたりもするし、劇団の中で芝居をするということの楽しさ、ありがたみを再確認しながら稽古に打ち込んでいます。

だから、最後の「あと1回」の公演を終えてからは何をしようって、まったく決めてないんです。これまでだって、そんなことは考えてこなかったし、今そのときに夢中になることしか私にはできないように思いますね。

キムラ 緑子さんへQ&A

Q:最近、面白かった本は?
A:東野圭吾さんの『パラドックス13』。東野作品は大スキです。あと、原田ランディさんの本はすべて読んでいます。かなりハマッてますね。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:学生時代、京都で観たつかこうへいさんの『銀ちゃんのこと』。感動しすぎて立ち上がることもできませんでした。人生を変えた体験です。
Q:もし女優になっていなかったら?
A:最近、世界の恵まれない子供達に少しでも何か出来ることはないかと思います。役者以外にのめり込むとしたら、そういう子供達に関わる仕事かもしれません。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

演劇の醍醐味は、やはり目の前で役者が演じるというところにあると思うんです。そこにいる役者は、その役のことを必死で考え、台本を読み、汗を流し、人と話し、酒を飲みしてきたわけで、うまかろうが下手であろうが、そこには観る人の心を動かすものがきっとあるはずです。その必死さをぜひ感じとってほしいですね。それを感じられたときは、きっと大きな感動があるはずです。

これから演劇をしようと思っている人へ

とにかく、いろんな芝居を観ることが大事だと思います。今まで「おもしろい」と思っていたことが、人の芝居を観ることで「こんなおもしろさもあるんだ」とくつがえされることはよくあることで、そういう経験の積み重ねが自分を知るいい機会になるはず。何が好きで、何が嫌いか、何をしたいと思っているのか、自分というもののモノサシを作ると同時に、新しい自分とも出会えるに違いないから。

キムラ 緑子さんの次回公演情報

「リボルバー」の画像画像を拡大する
劇団M.O.P.第44回公演 「リボルバー」

2010年までに3作品を上演して解散することになっている劇団M.O.P.。そのカウントダウン公演の第2弾『リボルバー』がいよいよ上演される。作・演出はもちろん、これまで同劇団を率いて演劇界に多大な影響を与えてきたマキノノゾミ。今回は、北村有起哉岡田達也演劇集団キャラメルボックス) などの客演を迎えた他、三上市朗小市慢太郎、そしてキムラ緑子らおなじみのメンバーの名演も期待できそうだ。ここしばらく劇団M.O.P.から目が離せないぞ!

大阪公演 東京公演
2009年7月18日(土)~7月20日(月・祝) 2009年7月29日(水)~8月9日(日)
松下IMPホール 紀伊國屋ホール
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/松谷祐増(TFK)

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