【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.69】石井 一孝『自分のことを「ミュージカル俳優だ」と思えるようになるには、だいぶ時間がかかりましたね』(掲載開始日:2009年7月9日)

石井 一孝(いしい・かずたか)
1968年1月23日、東京都生まれ。91年、帝国劇場『ミス・サイゴン』の1万5000人を超えるオーディションに合格して舞台デビューをはたす。
以後、ミュージカル俳優として地歩を固めるかたわら、シンガーソングライターとして『Heart&Soul Cafe』、『Doors to Break free』、『In the Scent of Love』、『Melodies for you』(曾我泰久とのコラボレーションCD)、『同じ傘の下で』の5枚のCDをリリースしている。

ミュージカルに無知だったからこそのびのびと歌うことができた (石井 一孝)

「歌手になるぞ」と思い立ったのが中学2年生のとき。音楽の授業で先生に「石井くんはきれいな声をしてるね」とほめられたのと、歌のうまい同級生の影響でしょうかね。高校時代にはバンドを組んだし、大学時代には曲をつくったりして、音楽にどっぷり浸かっていました。

目指していたのは、山下達郎さんや小田和正さんのような、自分で曲を作って、歌って、プロデュースするようなシンガーソングライターで、学生時代からいろんなオーディションを受けたんです。ところが、ひとつも引っかからない。デモテープと書類を送るだけで終わってしまうんです。

帝国劇場が『ミス・サイゴン』のキャストの大々的なオーディションをはじめたのは、そんなある日のことでした。その情報を見た知人に「チャンスなんて、どこに転がってるかわからないんだから、受けてみれば?」と言われたときは、「まさか」と思いましたよ。だって、歌をうたったことはあっても、演技も踊りもド素人。それどころか、ミュージカルの舞台さえ観たことがなかったですからね。

だから、二次審査に通過したという知らせを聞いたときは、驚きましたよ。それよりもっと驚いたのは、二次審査で課題曲を歌い終えたとき、「ファンタスティック!」という声があがったことです。

思えば、ミュージカルのことを何も知らなかったからこそ、よかったんでしょう。オーディションの審査員には、『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』の曲を作ったクロード=ミシェル・シェーンベルグさんとアラン・ブーブリルさんがいたんですが、そのときの僕は彼らの偉大さはまったく理解しておらず、「なかなか見る目のある人たちだな」なんて思ってましたからね。

トントン拍子でオーディションを通過。でも、心の裏では... (石井 一孝)

そんな感じでしたから、自分のことを「ミュージカル俳優」だと思えるようになるまでには、それからだいぶ時間がかかりました。

舞台デビューした『ミス・サイゴン』は、18カ月のロングランだったんですが、「この作品が終わったら、またバイトしながら曲書いて音楽のオーディションを受けよう」なんて考えてましたし、公演の途中に仲間から「『レ・ミゼラブル』のオーディションがあるから受けようよ」と言われたときは、「オレはいいっスよ」と言ったんです。ド素人の自分がポッと出で活躍できるほど、ミュージカルは甘い世界じゃないってことはやってみてよくわかりました。

ところが、これもあれよあれよという間に話が進んでいって、マリウス役という大役をいただくことになるわけですから、人生って何が起こるかわかりませんよね。音楽では、あんなにうまくいかなかったのに、ミュージカルのオーディションではなぜかトントン拍子で、途切れなくいい作品にも巡り会えているんです。

ただ、「歌手になりたい」という気持ちはまだ心の中にくすぶっていて、『レ・ミゼラブル』で450回もの公演に出演していながらも、人に職業を聞かれれば僕は「歌手です」と答えていました。

そんな中途半端な気持ちに踏ん切りがついたのは、1999年、デモテープをつくるつもりで知り合いのミュージシャンに声をかけたところ、「それなら自主制作でアルバムを出してみない?」と言われたのがきっかけでした。

インディーズながらもCDデビューをして、ライブ活動を通じてミュージシャン経験をしてみると、演劇の世界を客観的に見ることができる自分に気づきました。そこで初めて、ミュージカルの舞台に立って役を演じるということの楽しさ、魅力を知ったわけですね。

演劇と音楽、その両方を好きになることができた (石井 一孝)

演劇と音楽、そのふたつを経験することによって、どちらも好きになることができた。2003年に『レ・ミゼラブル』の主役ジャン・バルジャン役に抜擢されたとき、いただいた大役にふさわしい俳優になるために必死で努力しようと思えたのは、そのおかげと言っていいでしょう。

ちなみにこのとき、僕は敵役のジャベール警部役でオーディションを受けたんですが、そのビデオを本国イギリスで見た演出家のジョン・ケアードさんが「彼はバルジャンだ」と言って、僕を引き上げてくれたんだそうです。

こんな風に、チャンスというのは突然やってくるものだけど、そのとき僕がミュージカル俳優としての誇りを持っていなかったら、あの大役はこなせなかったと思うんです。そう考えてみると、タイミングってすごく大事だなぁと思うし、そのためにも新しいことにつねに挑戦し続けることの大切さを痛感しますね。

今回、ミュージカル『オペラ・ド・マランドロ』に出演するというのも、僕にとっては新たな挑戦のひとつです。

ミュージカルというと、明るく華やかで、わかりやすいストーリーの芝居が多いですけど、この作品はその正反対で、社会の暗部の怪しいムードがただよっているんです。どちらかというと、大人が観て楽しめる作品になるのかもしれません。

こういう新しい挑戦って、本当にわくわくしますよ。これからも、例えばシェイクスピア劇などにも挑戦していきたいし、音楽と演劇を融合する自分なりのミュージカルも、いつかはつくってみたいと思いますね。

石井 一孝さんへQ&A

Q:最近、ハマっていることは?
A:レコードコレクションが2万枚を超えました。今は、まだ聴いていない1万枚を聴くことに夢中になっています。
Q:落ち込んだときのパワーフードは?
A:レバニラ炒め。稽古が佳境で疲れ気味のときは、むしゃむしゃ食べてます。レバーが半生のヤツが好みです。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:最初に出演した『ミス・サイゴン』でしょう。その後、僕が演じたクリス役の『Why God Why?』という曲は、ベストナンバー。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

三谷幸喜さんが『オンリー・ミー 私だけを』というエッセイで、こんな意味のことを書かれているんです。「最高の演劇は、最高の映画より面白い。だけど、最低な演劇は、最低の映画よりつまらない」と。つまり、演劇は映画より、面白さの振幅が広いということなんだけど、なるほどなぁと思いました。だから、まだ演劇を観始めて間もない人は、多くの演劇に触れてほしい。心から面白いと思える作品には、絶対出会えるはずだから。

これから演劇をしようと思っている人へ

仲間と話をしていてよく出るのが、「ミュージカルは観るだけより、演じるほうが楽しいよね」ってこと。ホント、三度のメシより芝居が好きという人、この世界にはたくさんいます。とにかく演劇には、それだけ人を夢中にさせる魔力があると思うんです。その魔力にどれだけ気づけるか、演劇をどれだけ好きでい続けられるかが大事だと思います。迷ったり、苦しんだりするときは、初心に返って自分の気持ちを確かめてみてください。

石井 一孝さんの次回公演情報

「オペラ・ド・マランドロ ~リオデジャネイロ1941~」の画像画像を拡大する
アトリエ・ダンカンプロデュース 「オペラ・ド・マランドロ ~リオデジャネイロ1941~」

ブレヒトの『三文オペラ』を下敷きに、1979年ブラジルで上演されたヒットミュージカル『オペラ・ド・マランドロ』が、鈴木勝秀の脚本、荻田浩一の演出により、新しく生まれ変わる! 大作ミュージカルでプリンシパルを務めている別所哲也、歌唱力抜群のマルシア、ハロプロ卒業後本格的なミュージカル初挑戦に挑む石川梨華、そして我らが石井一孝と豪華なキャストが、どんな舞台を見せてくれるのか、乞うご期待!

東京公演 名古屋公演
2009年7月25日(土)~8月2日(日) 2009年8月8日(土)~8月9日(日)
東京芸術劇場・中ホール 中日劇場
大阪公演 仙台公演
2009年8月18日(火) 2009年8月21日(金)
シアター・ドラマシティ 電力ホール
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)

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