【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.68】石丸 謙二郎『犬も歩けば棒に当たるっていうけど、僕の演劇人生、本当にそんな感じだね』(掲載開始日:2009年7月2日)

石丸 謙二郎(いしまる・けんじろう)
1953年11月1日生まれ、大分県出身。つかこうへい事務所の舞台『いつも心に太陽を』で役者デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台に出演するほか、『世界の車窓から』(テレビ朝日系)のナレーターとしても活躍中。 ウインドサーフィンはプロなみで、さまざまな大会で好成績を残している。フリークライミング、釣り、将棋、スキューバダイビング、自転車、山登り、鍾乳洞 & 洞窟めぐりなど趣味は多彩。

失意の中で出会ったのがつかこうへいさんの芝居だった (石丸 謙二郎)

大分県から上京して日大藝術学部の演劇学科に入学したのは、別に「役者になろう」という目的があったからではないんです。

実際、その当時の東京はアングラ演劇が花盛りで、天井桟敷とか状況劇場、黒テントなど、いろんな芝居を観にいったんだけど、ピンときませんでした。田舎者だったし、演劇というものの意味すらわからなかった。

それで、セッセとアルバイトして200万円くらいの貯金をして、アメリカに行こうと思ったんです。趣味でジャズダンスやタップダンスを習ってたから、なんとなく本場のショービジネスの世界を覗いてみたかったんですね。

当時のお金で200万円といったら大金ですよ。2年間、3つのバイトを掛け持ちして、睡眠時間3時間に切りつめて働いて稼いだお金。ところがそのお金を、預けておいた投資先に持ち逃げされちゃった。困りましたねぇ。仲間に送別会まで開いてもらったのに...。

そんなある日の日曜日、住み込みのバイト先の近所をゲタ履きで歩いていたら、青山のVAN99ホールの前に行列ができていたんです。列のいちばん後ろに並んで、立ち見で観たのが、つかこうへいさんの『松ヶ浦ゴドー戒』。ショックでね。こんなことやってた人がすぐそばにいたんだと思って興奮して、その日は夜も眠れませんでした。

それで、何度かつかさんのところに通ううち、「踊りをおどれる男はいないか」という話を聞いて、「はい!」と手を挙げたんです。

20代後半の5年間は、人生の中で最も濃い5年間だった (石丸 謙二郎)

つかさんの芝居づくりは、とにかく型破り。稽古場には台本がなくて、その場その場でつかさんが即興でしゃべるセリフをオウム返しになぞっていく「クチ立て」というのをやるわけですけど、1回の稽古が12時間になるなんてのは当たり前。その間、役者はずっと気が抜けません。だからすごく体力がいるわけ。

僕は芝居はド下手だったけど、体力には自信があったから、それについていけたわけです。「そのへんで飛び跳ねてろ」と言われれば、30分でも1時間でもぶっ続けでできましたからね。

あと、つかさんの演技指導というのは、その役者の人間性までもさらけ出させて、それをまるごと全否定してくるような厳しいものだったんだけど、僕はそのへんも打たれ強いというか、鈍感だったのでやり続けてこれたんです。

劇団が解散するのはその5年後なんだけど、この5年間は僕にとってホントに濃い5年間でしたね。

それだけにその後、他の劇団の舞台に立つときには困りましたよ。何が困ったかって、台本が覚えられないんです。紙に書いてあるセリフをしゃべるのが、初めてなわけですからね。仕方がないから、自分の声をテープに録音して、ひとり「クチ立て」をやったりして。

でも、つかさんのもとを離れてからは何もかもが新鮮で、心から芝居を楽しめるようになっていました。稽古は苦しいものだと思っていたけど、その稽古がすごく楽しいんです。

もちろん、本番もすごく楽しい。僕は、役者として売れたいとか、金持ちになりたいとか、そんなこと考えずに夢中でやってきたつもりだけど、そのころになってやっと「面白い役者になりたい」と、初めて目標のようなものを持てたような気がしますね。

50歳を過ぎてミュージカルに初挑戦! (石丸 謙二郎)

20代の後半は、つかさんのもとで無我夢中で芝居をやってきて、30代からはいろんなものに挑戦してきました。

『世界の車窓から』(テレビ朝日系)のナレーションは、「石丸は肉体派なんだから原稿を読ますな」なんて言われてた中で引き受けた仕事。下手ながらも一生懸命やり続けて、それが今に至るまで、22年も続ちゃうんだからわからないものですね。

50歳を過ぎても、新たな挑戦は続いています。

2006年、『フロッグとトード』で初めてミュージカルに出演したのが52歳のとき。別に避けていたわけではないんだけど、縁にめぐまれなかったんですね。

それが、「石丸さん、タップダンスを踊るシーンがありますよ」というプロデューサーの言葉に乗せられて引き受けてからはもう大変。

というのも僕、ダンスは踊れても、譜面が読めないんです。自分が歌っているのが主旋律なのか、ハモりのパートなのかさえわからない。そこで、共演者の中山昇くんに頼んで僕のパートを歌ってもらってテープに録音して、何度も何度もそれを聞いてメロディを覚えました。つかさんの「クチ立て」と同じやり方ね。

でもね、そうやって苦労したから言うんじゃないけど、これが素敵な曲なんですよ。古き良きアメリカのスタンダードジャズが、本当に耳に心地いい。

台本も素晴らしくて、大人も子供も楽しめる内容です。もしかして、20代のときの渡米の夢が実現していたら、「こういう作品に出たい」と思うような作品かもしれない。犬も歩けば棒に当たるっていうけど、30年以上たって、やっと棒に当たることができたわけですね。

人生って、面白いね。ここまで役者やっててよかったなと、本当に心からそう思いますよ。

石丸 謙二郎さんへQ&A

Q:最近、ハマっていることは?
A:三浦半島から伊豆半島までの40キロをウィンドサーフィンで渡るってことに挑戦しています。必ず成功させますよ。
Q:最近の悩みごとは?
A:7年前、大西洋横断を計画したんだけど、3人しか集まらなくて断念したんです。そういう仲間、いないですかね。
Q:もし俳優になっていなかったら?
A:子供のころは、ターザンになりたかった。スポーツマン。冒険家。今だってなりたいと思っていますよ。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

観終わったときの余韻って、僕はテレビや映画以上に演劇のほうが大きいと思うんです。やはり、生身の役者が目の前で演じる表現だからというのがあるんでしょう。だから、恋人とのデートとか、大切な人と一緒に行くのがオススメです。食事をしながら感想を語り合えば、話は尽きないでしょうし、その思い出は20年たっても30年たっても褪せることはないでしょう。

これから演劇をしようと思っている人へ

昔はそういう人に、「やめときなさい」と言ってましたけど、そう言われても「やりたい」と思う人は、それだけで偉いと思いますよ。でも、ひとつだけ言うなら、売れたいとか、金持ちになりたいとか、そういう漠然とした目的じゃなくて、目の前のことに夢中になることが大事だと思います。夢中になるものがなければ、探してでも夢中になる。成功する人とそうでない人との違いは、「やる気」なんだと僕は思うから。

石丸 謙二郎さんの次回公演情報

「フロッグとトード がま君とかえる君の春夏秋冬」の画像画像を拡大する
ブロードウェイミュージカル 「フロッグとトード がま君とかえる君の春夏秋冬」

2006年、2007年に上演され、好評を博したミュージカル『フロッグとトード』が今夏、決定版として再演される。流れる季節の中で繰り広げられる二匹のカエルのおかしくも心温まるやりとりは、単純な中にも切なさと深い味わいがあるストーリー。子供だけでなく、大人も楽しめる娯楽作だ。すでにミュージカル俳優として評価の高い川平慈英と、この作品でミュージカルデビューした石丸謙二郎の絶妙のコンビネーションは必見だ!

2009年7月18日(土) 2009年8月15日(土)~8月23日(日)
王子・北とぴあ さくらホール サンシャイン劇場
 
他、地方公演あり
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK) ヘアメイク/岩井マミ

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