高校時代はずっとバンドをやっていたんですけど、演劇好きの仲間がいまして、誘われるがままに清水邦夫の『署名人』という芝居をやったのが最初のきっかけ。演劇部もない高校で、そういう世界とはまったく縁のない生活をしていた僕にとって衝撃的な体験で、バンドで演奏するのと違う、静かな感動があったんですね。もっとも、今思えば素人芝居もいいところで、見てくれた同級生たちには苦痛だったでしょうけどね(笑)。
ともかくその経験があって、法政大学に進学してからはいろいろな演劇サークルを見てまわったんです。その中で目に止まったのが、後に「ひょっとこ乱舞」を旗揚げする広田淳一の演劇サークルで、インカレの部員として彼らと一緒に活動することになるんです。
そのころの劇団は、彼らの先輩で、東大の駒場小劇場(現・駒場小空間)で活動していた野田秀樹さんの影響を色濃く受けていて、とにかく舞台の上を無駄に走り回る芝居をやっていましたね。
広田さんは、ハンドボール出身のスポーツマンだったし、同時に太宰治に心酔する文学青年で、僕にはないキャラクターを持っていて馬が合ったんです。実際、大学の3年間を彼とともに芝居を作りながら過ごした日々は、とても楽しかった。
ただその一方で、それまでまったく自己流で芝居をやってきた分、キチンとした基礎を積みたいと考えもあって、大学を卒業するときには「ひょっとこ乱舞」を離れ、「★☆北区つかこうへい劇団」に入団することを決めたんです。
「★☆北区つかこうへい劇団」では、考える前に動け、ということを叩き込まれました。
まずオーディションから印象的で、100人近い応募者を舞台の上に立たせて、「自分の名前を声を出して言え」と指示してきたんです。大勢の応募者の声に負けないよう「チョウソンハ、チョウソンハ、チョウソンハ!」と大きな声を出したつもりなんですが、客席からその声をかき消すような大音声で「聞こえねぇよ~!」という叫びが聞こえてきたんです。俳優で事務局長もやってた友部康志さんの声でした。
とにかく、最初から最後まで、僕にとっては強烈な体験で、1年間の養成期間を経て劇団員になってからは、貴重な経験を積ませてもらいました。
転機がやってきたのは、その半年後のこと。「ひょっとこ乱舞」の公演は、退団したあとも観に行っていて、広田さんから「劇団に戻ってこい」という趣旨の、理屈っぽい長文の手紙をもらったりもしていたんです。そこで僕も、いろいろ考えて、劇団に出戻りすることを決意するわけです。つかさんに「同年代の仲間と、同時代の芝居をつくっていきたい」という手紙を書いて。
これはあくまで僕の印象なんですが、「ひょっとこ乱舞」にいて同時代の芝居をつくるという事は必然的に考えるという事が必要になる。一方、「★☆北区つかこうへい劇団」には考えるより動け、という精神がある。そのふたつの劇団で経験を積んだことによって、頭と体の使い方を、いい形で学べたような気がします。
ただ、出戻りした「ひょっとこ乱舞」のみんなには、「お前、暑苦しくなったなぁ」と言われただけでしたけどね(笑)。
結果的に「ひょっとこ乱舞」では5回の公演を欠席し、第8回公演で復帰することになったんですが、そこからは頭も体もフル回転。
同時に、「★☆北区つかこうへい劇団」で僕が最後に出演した公演を観た演出家のロバート・アラン・アッカーマンさんが『エンジェルス・イン・アメリカ』に起用してくださったり(後にアランが主宰する「the company」の一員に)、岩松了さんや長塚圭史さんに声を掛けていただいたりして、外部公演に参加するチャンスがくるようになったのはうれしいことで。
もっとも、大きなチャンスにはプレッシャーもつきもので、その場その場で自分にできることをやろうと精いっぱいです。
2007年に新国立劇場の『夏の夜の夢』のオーディションに参加したときは、まさにそういう体験でした。なにせ、目の前にいるのは、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの名誉アソシエート・ディレクターのジョン・ケアードさんですからね。でも、ジョンさんはとても不思議な雰囲気を持った方で、英語のセリフと日本語のセリフの混合セッションがはじまったときは、そのオーディション自体を楽しんでいました。あと、「モノマネはできるか?」と聞かれて、エアロスミスのスティーヴン・タイラーになりきって一曲歌ったり。
今回、2年ぶりにその『夏の夜の夢』が再演になったことはとてもうれしいことで、プレッシャーはあいかわらず大きいですけど、とにかくぶつかっていくしかないなという心境です。
- 「夏の夜の夢」
2007年初夏に上演され大好評を博したジョン・ケアード演出のシェイクスピア喜劇『夏の夜の夢』が満を持して再登場する。俳優陣は、ケアード作品の常連で演出家の信頼厚い実力派村井国夫、気高い女王役からロバに恋するチャーミングな女王役まで圧倒的な存在感をほこる麻実れい、そして、いたずら好きな妖精パックを躍動感みなぎる演技で評価されたチョウ ソンハが扮する。ケアードならではの緻密な人物描写、生バンドとのコラボレーションや陽気なダンスに豪華な美術、創意に富んだ衣裳と、みどころ満載の作品だ!
東京公演 富山公演 2009年5月29日(金)~6月14日(日) 2009年6月27日(土) 新国立劇場 中劇場 オーバード・ホール
取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)











