【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.61】西岡 德馬『映像の仕事の楽しさを知って新たに舞台の仕事の楽しさを知った』(掲載開始日:2009年5月14日)

西岡 德馬(にしおか・とくま)
1946年10月5日生まれ。神奈川県横浜市出身。大学卒業後の1970年に文学座に入団。多くの舞台に出演する。79年に退団後はテレビ・映画を中心に活躍。現代劇のみならず、時代劇でもその存在感を発揮した。近年は舞台出演にも積極的で、2006年には朋友の江守徹と 『サンシャイン・ボーイズ』(パルコ劇場)で25年ぶりの舞台共演を果たした。

学生時代から劇団時代まで、僕は、オーディション運がすごくいいんですよ (西岡 德馬)

高校2年生のときに学校を退学して、親父から「お前は芸能学校に行け」と指示されたのが演劇の道に進むことになったきっかけ。だから、ふらっと覗き見するような感覚でした。

ところが、その芸能学校には明治生まれのすごい怖い女の先生がいてね、生徒を横一列に並ばせて、眼鏡ごしの鋭い眼光でにらみながらドキッとするような説教をするんです。僕の番がまわってきて、さて何を言われるかと思ったら、「アンタはいい役者になるよ」だって。

それで、いい役者ってなんだ?と思い、まずは内面を磨かなきゃいけないだろうと高校に入り直したんです。演劇を通じて更正したわけだ(笑)。

その後、演劇科のある大学に入学して、『ヴェニスの商人』のオーディションを受けて役をもらって以来、演劇の世界にどっぷり。

当時の僕にとって演劇界のヒーローは芥川比呂志さんで、大学を卒業したら劇団雲に入って翻訳ものを演じたいと思っていたんだけど、ひとりの先生の「西岡は文学座向きだよな」というアドバイスを聞いてオーディションを受けてみたら、トントン拍子に特待生待遇で受かっちゃった。

そういう意味で僕は、オーディション運がすごくいいんですよ。

飲み屋のオヤジのひとことで全国区の俳優を目指すことを決意 (西岡 德馬)

劇団に入団してからも次々といい役をもらったし、商業演劇に進出したころの蜷川(幸雄)さんと『ロミオとジュリエット』で意気投合したのをきっかけに、その後も『リア王』などの公演で呼ばれたり、劇団を旗揚げしたばかりのつかこうへいと仲良くなって公演に参加したり、すごくいい経験を積めたことは幸運でしたね。

文学座に所属する新劇俳優でありながら、帝国劇場とかの大劇場から100人ほどの小劇場の演劇にも首をつっこんでいたわけで、内心、日本の俳優の中で自分は希有な存在だろうと鼻を高くしていたんです。

ところがね、ある飲み屋のオヤジに九州弁でこんなことを言われたんです。「德馬ちゃん。アンタ、演劇の世界では有名かもしれんが、俳優としては、まだまだ地方区ばい?役者は全国区にならないかんばい!」ってね。要するに、東京の演劇の世界ではいっぱしの俳優でも、地方に行けば誰も顔を知られない、マイナーな俳優に過ぎないというわけだね。

確かにそうだなと思いましたよ。実際そのころの僕は、劇団の中で芝居をするより、「初めまして」で関係を築いていく外部公演の緊張感にやりがいを見いだしていたころでもありました。

そこで、「文学座の西岡德馬」ではなく、後ろ盾のない「いち俳優の西岡德馬」として自分がどこまでやれるのか、試してみたくなって劇団の外に行くことを決意したわけです。

同時に、1989年のつかこうへいの『幕末純情伝』のパルコ劇場での公演を終えたのを期に、「全国区の俳優」を目指して映像の仕事に切り替えた途端、フジテレビの連続ドラマ『東京ラブストーリー』の役に巡り会って、いっきに映像の仕事がメインになっていったんですね。

つねに心は「背水の陣」。だからこそ俳優はやめられない (西岡 德馬)

そういうわけで、舞台の仕事からはしばらく離れていたんだけど、3年ぶりに舞台に復帰。91年に大竹しのぶさんと、イプセンの『人形の家』に出演したとき、「西岡さんは舞台もやるんですね」とまわりの人から言われたのには、軽いショックを受けましたよ(笑)。

ともかく、劇団員として気心知れた人たちと芝居づくりをする楽しさを知り、外部公演に出演するときのわくわくするような緊張感を味わい、その一方、映像の世界で演劇とは違う、まばたきひとつでいろいろな感情を表現できる醍醐味を知った今、すべての仕事を新鮮に感じられる自分がいる。そのことには本当に感謝をしなければいけないね。

そういう目で見てみると、やはり舞台の仕事は面白い。江守(徹)さんと25年ぶりに『サンシャイン・ボーイズ』で共演したときはすごく楽しかったし、2008年にいのうえ歌舞伎☆號『IZO』のロックコンサート会場みたいな熱気ある舞台に立ったときも同じような楽しさを感じた。この仕事は、本当に面白いね。

今回の『江戸の青空』にしても、何が起こるんだろうかとわくわくしています。今回、僕が演じることになる役は、真面目で堅物の素浪人なんだけど、舞台デビューしてからそろそろ40年になろうとしている中で、一度も演じてきたことのなかった役。今までのキャリアの中で、一番むずかしい演技を要求されるかもしれないなと、内心では戦々恐々です。

いつでもこういう試練があって、毎回毎回が「背水の陣」という心境。だからこそ、役者って仕事はやめられないんだよね。

西岡 德馬さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:ガーデニング。土をいじると、すごくリラックスできるんだよね。今、引っ越しを前にプランを練っています。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:1968年、ロンドンのロイヤル・シェイクスピア劇場で観た『リア王』。これを観たという体験は一生の財産です。
Q:もし、俳優になっていなかったら?
A:今は弟が継いでいるんだけど、親父の印刷業をやっていたのかな。でも、確実に倒産させていただろうね(笑)。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

学生時代、僕がよくやっていたのは、これから観る芝居の戯曲を読んでから観るということ。戯曲というのは、とっつきにくい読み物かもしれないけれど、落語みたいにすべての役を演じながら読むと面白いものですよ。それが実際には、どんな風に表現されているかを目の当たりにすると、さらに面白さが広がるはずです。

これから演劇をしようと思っている人へ

まずはみんな、「演劇が好き」ってところから始めると思うんだけど、「好きだから何でもできる」というわけじゃないのがこの世界のむずかしいところ。そこで、自分に何ができるのかは、いろんな人の芝居を観て、感性を磨くしかないと思う。その上で、「オレだったらこうする」と感じることができるならば、それはきっと間違いのない方向に歩んでいるんだと思っていいと思う。

西岡 德馬さんの次回公演情報

「江戸の青空 ~Keep On Shackin'~」の画像画像を拡大する
北九州芸術劇場 Produce 「江戸の青空 ~Keep On Shackin'~」

北九州芸術劇場プロデュース、AGAPE Store企画の落語作品のシリーズ第2弾がいよいよ上演される。演出は前回『地獄八景・・浮世百景』を演出したG2が再び手がける。「文七元結」「芝浜」から「三軒長屋」「御神酒徳利」そして「井戸の茶碗」「柳田格之進」など名作古典落語が次々登場。西岡德馬、須藤理彩中村まこと(猫のホテル)、戸次重幸(TEAM NACS)、松尾貴史柳家花緑吉田鋼太郎ほか、豪華メンバーが、組んず解れつのドタバタ・人情コメディを繰り広げる。見逃すな!

東京公演 広島公演
2009年5月24日(日)~6月7日(日) 2009年6月11日(木)
世田谷パブリックシアター アステールプラザ大ホール
北九州公演 大阪公演
2009年6月12日(金)~14日(日) 2009年6月19日(金)~21日(日)
北九州芸術劇場 中劇場 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
名古屋公演 札幌公演
2009年6月22日(月) 2009年6月24日(水)・25日(木)
愛知県勤労会館 札幌市教育文化会館
新潟公演 仙台公演
2009年6月27日(土) 2009年6月29日(月)
りゅーとぴあ・劇場 イズミティ21大ホール
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)

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