【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.59】岸谷 五朗『演劇は、簡単にできないものだったからこそ、のめり込めた。』(掲載開始日:2009年4月30日)

岸谷 五朗(きしたに・ごろう)
1964年9月27日、東京生まれ。大学在学中に劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)に入団。93年、映画『月はどっちに出ている』に出演して以降は映画、テレビなどにも進出する。94年、寺脇康文と企画ユニット・地球ゴージャスを結成し、2009年の『星の大地に降る涙』で10作目の公演をむかえる。また、2009年公開の『キラー・ヴァージンロード』では初の映画監督に挑戦。

19歳で進路に悩んでいたとき、「役者になればいいんだ」ってひらめいた (岸谷 五朗)

小学2年生のとき、日生劇場の『ガンバの冒険者たち』というミュージカルを学校のみんなで観にいったんです。ただ、こっちは大人しく観客席に座ってるような子供じゃない。当然ながら、舞台を観ずに外のロビーで6人の悪友たちと追いかけっこをしてたんですよ。鬼は、トイレでおしっこがついた手で追いかけてくるから、絶対につかまることのできない、命がけの鬼ごっこです。だから、ロビーから客席のドアを開けて劇場の中に逃げ込んだのは、なかば無意識でした。だけどね、僕が入った途端、舞台はちょうどクライマックスで、そこで繰り広げられている演劇的な雰囲気に、ガーンと頭を殴られたような気分になったんです。鬼にさわられてたのも気づかないくらい、舞台に観入ってしまった。

それが、僕の人生初めての演劇体験。

たぶん、そのことが心の片隅にずっとあったんでしょうね。19歳になって将来の進路に悩んでいたとき、「あっ、そうだ。舞台役者になればいいんだ」ってひらめいたんです。スポーツでも勉強でも、そこそこ器用にこなせるんだけどすぐに飽きてしまい、何ごとにも夢中になれなかった僕が、演劇なら一生の仕事にできるんじゃないか。そう思えたんですね。

劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)に入団したのはその直後です。最初は3~400人が受ける入団試験に合格したのは当然のことで、すぐに主役になってバリバリやっていけるんだと思っていました。ところが現実はその正反対で、主役どころか、役と呼べるようなものももらえない。大道具のほうでは器用さを生かして「岸谷に殴り(金づち)を持たせるとすごいぞ」という評判をいただくほどになるんですが、演技のほうは、いくらやっても下手くそもいいところでね...。

反対を押しきって成し遂げた新人公演では、大きな達成感を味わった (岸谷 五朗)

ただその反面、簡単にできないものだったからこそ、のめり込めた。

僕はそのころ、劇団での稽古に加えて、1500円の授業料を払ってダンス教室に通っていました。1500円といったら、バイトで3時間も働かなきゃ稼げないお金だから、必死で吸収しましたよ。

それからこの時期、寺脇康文という男と出会ったことも大きい。23歳のとき、役をもらえずにくすぶっていた僕は、寺脇と手を組んで作・演出をてがける『ゲボ・ハハハ』という新人公演を企画したんです。

ただ、劇団はそのころ、本多劇場三百人劇場といった大きな劇場に進出して上り調子のころで、「新人が下手なことやってコケたら、どうするんだ。責任とれるのか?」と、大反対されてしまったんです。確かに先輩が言うのももっともなんだけど、僕は次の瞬間、「もし面白くない公演だったら、オレは責任をとって劇団を辞めます」と宣言していました。

その公演の千秋楽。寺脇たちとは、「オレたちはプロなんだから、お客さんの前で泣くなんてことはないよな」と話していたんです。ところが、カーテンコールでお客さんにお辞儀をして顔をあげたら、寺脇が号泣しているじゃないですか。つられて僕も泣いてしまいました。僕らはそれくらい、大きな達成感を味わっていました。

だから、座長(三宅裕司)に呼ばれて感想を聞きにいくときは、「つまらない芝居だった」と言われて劇団を去ることになってもいいとさえ思っていました。でも座長が「すげぇ、よかったよ」と言ってくれたときはさすがにうれしかったですね。その日、飲んだビールの味は、今でも忘れられません。

えっ? 「カーテンコールで先に泣いたのは岸谷だ」って寺脇が言ってたって? それは嘘ですよ(笑)。

地球ゴージャスが「劇団」ではなく「企画ユニット」である理由 (岸谷 五朗)

30歳のとき、それまで僕を育ててくれた劇団を離れることになったんですが、寺脇と一緒に何かを作ろうという話をしたとき、地球ゴージャスが「劇団」ではなく「企画ユニット」であることにこだわったのには、わけがあるんです。

確かに、息の合う仲間とあうんの呼吸で芝居づくりができる劇団という形式は素晴らしい。作品ごとに俳優選びをし、ゼロからつくっていく企画ユニットだと、全員の呼吸が合うまで長い長い時間がかかりましただけど、ある水準までに達してからの伸びは、無限大なんですね。気心の合う劇団員以上に結束の固い、コンビネーションが生まれるんです。

作品に合わせて大きな劇場、小さな劇場と、小回りを利かせられるのも企画ユニットの利点です。毎回、毎回がチャレンジだし、全力投球。手間が掛かる作業だけど、それが僕たちにはピッタリの表現方法なんですね。

それだけに、今回の『星の大地に降る涙』で10作目の公演をむかえられるということには大きな感慨があります。

この作品は、本田美奈子.の遺作になってしまった第7回公演『クラウディア』(2004年)につながるもので、「30人もの役者が舞台に出てくる群衆劇であること」、「反戦というテーマを持つこと」、「なおかつ人を楽しませるエンターテインメント性に富んでいること」という共通点を持っています。EXILEが主題歌を提供してくれたこともうれしくて、今から何が起こるか、わくわく楽しみにしています。

岸谷 五朗さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:趣味のない男だったんですが、2~3年前からサーフィンをはじめました。自然の中に身を置くと、頭が働きますね。
Q:最近、読んで面白かった本は?
A:天童荒太さんの『悼む人』。今、読んでいる最中なんですが、夢中になってます。とにかく面白い。
Q:落ち込んだときのパワーフードは?
A:食べものは何でもいいんだけど、酒は欠かせません。稽古中に言えなかったことも、酒の席では言えたりするんですよ。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

僕は年に1回、ニューヨークに行って、20本くらい片っ端から芝居を観ることをずっと続けているんです。両手がパンフレットでいっぱいになるくらいで、まさに浴びるように観るという感じ。それくらい立て続けに観ると、1本くらいハズレがあっても我慢できる。もちろん、地球ゴージャスは、ハズレなしですけどね(笑)。

これから演劇をしようと思っている人へ

未来の自分に「投資」をすることは、とても大切なことだと思います。お金をかけてレッスンに通うとか、芝居を観にいったり、本を読んだりしたことが、10倍、100倍の効果で未来の自分を豊かにしてくれるはず。「今やっていることは決して無駄にはならない」と信じて頑張ってほしい。

岸谷 五朗さんの次回公演情報

「星の大地に降る涙」の画像画像を拡大する
ダイワハウスSpecial
地球ゴージャスプロデュース公演Vol.10
「星の大地に降る涙」

ユニットゆえのフットワークで、これまで数々の才能を迎え、斬新なコラボレーションで世の中に新しい作品を提供してきた「地球ゴージャス」。これまでの9作品で延べ44万人を動員するなど、つねに話題を呼んできたこのユニットが、ついに10作目の公演を迎える。出演は、岸谷五朗初監督映画 『キラー・ヴァージンロード』でも主演をつとめた木村佳乃をはじめ、ドラマ『ブラッディ・マンデイ』での活躍が記憶に新しい三浦春馬TEAM NACS音尾琢真ほか、ゴージャスな顔ぶれ。歌やダンスをふんだんに取り入れたエンターテインメント性の高いステージを堪能しよう!

東京公演 札幌公演
2009年6月20日(土)~7月26日(日) 2009年7月30日(木)~8月3日(月)
赤坂ACTシアター 道新ホール
大阪公演
2009年8月7日(金)~8月17日(月)
梅田芸術劇場 メインホール
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK) ヘアメイク/MIZUHO(vitamins) スタイリング/石川英治

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