- 板尾 創路(いたお・いつじ)
- 1963年生まれ。大阪府出身。吉本総合芸能学院(NSC)4期生。86年、蔵野孝洋(ほんこん)と、お笑いコンビ130Rを結成してデビュー。2000年前後からは俳優としての活躍も目覚しく、テレビ、映画、舞台で印象的な役柄を演じている。2009年現在は、新国立劇場での舞台シリーズ・同時代【海外編】Vol.2『シュート・ザ・クロウ』に出演している他、長編映画『板尾創路の脱獄王』を監督、主演している。
もともとお笑いの世界からこの仕事をはじめた僕が、俳優として舞台や映画に起用されるようになったのは、1999年を過ぎたころだったでしょうか。
Piperの後藤ひろひとに声をかけられて、『ニコラス・マクファーソン』という舞台に出たのがちょうどその1999年でした。まずビックリしたのは、ひとつの舞台をつくるのに、あんなにたくさんの稽古をするということ。お笑いの舞台でコントを演じるときとは大違いで、だいたいそっちのときは、自分のセリフだけ覚えておけば、あとはなんとかなるだろうというノリですからね。いちおう「やる」と返事をしてしまった手前、「やるしかない」とは思いましたが、「ホンマにできるんかいな」という気持ちは最後までありましたね。
それは、ある種の洗礼みたいな体験で、毎日が必死でした。まぁ、そうやって本番前の数日間は集中して覚えたので、途中でセリフが飛んでしまうというような大失敗はせずに何とかやれましたけど、ある日の公演で、小道具の携帯電話を楽屋に忘れて舞台に出てしまったときはさすがにアセりました。
音響さんが電話の呼び出し音を鳴らしてるんですけど、持ってないんで、なかなか出られないんですよ。しょーがないから、履いてた靴を脱いで、耳に当てました。はい。そのとき、後藤が僕を見たときの顔が、ちょっとした見ものでしたね。ヒゲがピクピク動いてるんですけど、ああいうのを「あきれ顔」というんでしょう。忘れられないですね。
コントだったり漫才というのは、お客さんからいかにたくさん笑いをとるかというのが最終目標ですけど、演劇の場合は、それがコメディであれ、ストーリーの流れをちゃんと見せなくてはいけません。そのためには、笑いのない場面を段取りにそって演じていかなくてはならないところもあって、シーンとしたお客さんの前に立つときのある種の「いたたまれない感じ」に慣れるまでは多少、時間がかかったように思います。
その一方で、シリアスな場面や泣かせの場面なんかで一生懸命演じていても、僕が演じているということで期せずして笑いが起こってしまうというときもあるんです。
映画『ナイン・ソウルズ』(2003年)の公開初日の舞台あいさつのとき、僕が「板尾です」と名前を名乗っただけで笑いが起きたんですが、こちら側には、笑わそうという意識はまったくなかったんです。芸人としてはありがたい話ではあると思うんですが、こっちがマジメな顔をしてしゃべってるときに、お客さん側で「何かあるんじゃないか」と裏を読まれてしまうことが邪魔になると言ったら、そういう面も確かにありますね。
まぁ、それでも最近は、俳優としていろんな作品に出させてもらうようになって、さすがにそういうことは少なくなりましたけどね。
そうは言っても、それが俳優として演技力がついたからなんだとは思えないんですよね。俳優になるために特別な訓練をしてきたわけでもないですから、むしろ演技力はないほうだと思っています。特に舞台の場合は映像と違って、セリフを丸ごと覚えなくてはいけませんから、毎回毎回、ギリギリのところで頑張っているというのが正直な感じですね。
今回の『シュート・ザ・クロウ』も翻訳劇ということで、セリフが多いんですよ。2003年に長塚圭史の演出の『ウィ・トーマス』に出たときも翻訳劇だったんですが、向こうのお芝居というのは日本のお芝居と比べて、セリフが多くなる傾向にあるみたいですね。間とかで感情を表現するかわりに、いきなり議論をはじまったり、長いセリフをしゃべり出したりするんです。それがむずかしい。
しかも今回、僕が演じるソクラテスというタイル貼り職人の役は、演出の田村孝裕さん(劇団ONEOR8)が、「板尾がこの役をやるなら(演出を)引き受ける」と言ったそうで、プレッシャーも大きいですね。2000年に出た舞台『王将』で坂田三吉を演じたときも、松尾スズキさんがそれと同じようなことをおっしゃっていたそうで、このときも同じようなプレッシャーがありました。
まぁ、でも、そうやって誘われることはとても光栄なことですし、演出家が「板尾で」と言ってはるなら、僕にはそんなに責任はないのかなと気楽に思う面もありますけどね(笑)。
ところで今年は、長編映画の監督もさせてもらったんですけど、これも俳優のときと同じことで、自分から働きかけて監督になったわけではなくて、いろんな流れの中でそういうことになっていました。
人間、生きていればいろんな風が吹いてくるもので、人生哲学なんて大仰なものではないですけど、そういう風に乗っていくのが僕には向いているように思うし、これからもそうやって生きていくんだと思いますね。
取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)











