【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.58】板尾 創路『同じ舞台でも、お笑いと演劇は、まったく別物ですよね』(掲載開始日:2009年4月23日)

板尾 創路(いたお・いつじ)
1963年生まれ。大阪府出身。吉本総合芸能学院(NSC)4期生。86年、蔵野孝洋(ほんこん)と、お笑いコンビ130Rを結成してデビュー。2000年前後からは俳優としての活躍も目覚しく、テレビ、映画、舞台で印象的な役柄を演じている。2009年現在は、新国立劇場での舞台シリーズ・同時代【海外編】Vol.2『シュート・ザ・クロウ』に出演している他、長編映画『板尾創路の脱獄王』を監督、主演している。

初舞台を踏んだときは「ホンマにできるんかいな」という思いがありましたね (板尾 創路)

もともとお笑いの世界からこの仕事をはじめた僕が、俳優として舞台や映画に起用されるようになったのは、1999年を過ぎたころだったでしょうか。

Piper後藤ひろひとに声をかけられて、『ニコラス・マクファーソン』という舞台に出たのがちょうどその1999年でした。まずビックリしたのは、ひとつの舞台をつくるのに、あんなにたくさんの稽古をするということ。お笑いの舞台でコントを演じるときとは大違いで、だいたいそっちのときは、自分のセリフだけ覚えておけば、あとはなんとかなるだろうというノリですからね。いちおう「やる」と返事をしてしまった手前、「やるしかない」とは思いましたが、「ホンマにできるんかいな」という気持ちは最後までありましたね。

それは、ある種の洗礼みたいな体験で、毎日が必死でした。まぁ、そうやって本番前の数日間は集中して覚えたので、途中でセリフが飛んでしまうというような大失敗はせずに何とかやれましたけど、ある日の公演で、小道具の携帯電話を楽屋に忘れて舞台に出てしまったときはさすがにアセりました。

音響さんが電話の呼び出し音を鳴らしてるんですけど、持ってないんで、なかなか出られないんですよ。しょーがないから、履いてた靴を脱いで、耳に当てました。はい。そのとき、後藤が僕を見たときの顔が、ちょっとした見ものでしたね。ヒゲがピクピク動いてるんですけど、ああいうのを「あきれ顔」というんでしょう。忘れられないですね。

今でも舞台に出るときは、ギリギリで頑張っているという感じ (板尾 創路)

コントだったり漫才というのは、お客さんからいかにたくさん笑いをとるかというのが最終目標ですけど、演劇の場合は、それがコメディであれ、ストーリーの流れをちゃんと見せなくてはいけません。そのためには、笑いのない場面を段取りにそって演じていかなくてはならないところもあって、シーンとしたお客さんの前に立つときのある種の「いたたまれない感じ」に慣れるまでは多少、時間がかかったように思います。

その一方で、シリアスな場面や泣かせの場面なんかで一生懸命演じていても、僕が演じているということで期せずして笑いが起こってしまうというときもあるんです。

映画『ナイン・ソウルズ』(2003年)の公開初日の舞台あいさつのとき、僕が「板尾です」と名前を名乗っただけで笑いが起きたんですが、こちら側には、笑わそうという意識はまったくなかったんです。芸人としてはありがたい話ではあると思うんですが、こっちがマジメな顔をしてしゃべってるときに、お客さん側で「何かあるんじゃないか」と裏を読まれてしまうことが邪魔になると言ったら、そういう面も確かにありますね。

まぁ、それでも最近は、俳優としていろんな作品に出させてもらうようになって、さすがにそういうことは少なくなりましたけどね。

そうは言っても、それが俳優として演技力がついたからなんだとは思えないんですよね。俳優になるために特別な訓練をしてきたわけでもないですから、むしろ演技力はないほうだと思っています。特に舞台の場合は映像と違って、セリフを丸ごと覚えなくてはいけませんから、毎回毎回、ギリギリのところで頑張っているというのが正直な感じですね。

いろんな出会いがあって俳優になり、監督になり... (板尾 創路)

今回の『シュート・ザ・クロウ』も翻訳劇ということで、セリフが多いんですよ。2003年に長塚圭史の演出の『ウィ・トーマス』に出たときも翻訳劇だったんですが、向こうのお芝居というのは日本のお芝居と比べて、セリフが多くなる傾向にあるみたいですね。間とかで感情を表現するかわりに、いきなり議論をはじまったり、長いセリフをしゃべり出したりするんです。それがむずかしい。

しかも今回、僕が演じるソクラテスというタイル貼り職人の役は、演出の田村孝裕さん(劇団ONEOR8)が、「板尾がこの役をやるなら(演出を)引き受ける」と言ったそうで、プレッシャーも大きいですね。2000年に出た舞台『王将』で坂田三吉を演じたときも、松尾スズキさんがそれと同じようなことをおっしゃっていたそうで、このときも同じようなプレッシャーがありました。

まぁ、でも、そうやって誘われることはとても光栄なことですし、演出家が「板尾で」と言ってはるなら、僕にはそんなに責任はないのかなと気楽に思う面もありますけどね(笑)。

ところで今年は、長編映画の監督もさせてもらったんですけど、これも俳優のときと同じことで、自分から働きかけて監督になったわけではなくて、いろんな流れの中でそういうことになっていました。

人間、生きていればいろんな風が吹いてくるもので、人生哲学なんて大仰なものではないですけど、そういう風に乗っていくのが僕には向いているように思うし、これからもそうやって生きていくんだと思いますね。

板尾 創路さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:『シュート・ザ・クロウ』は職人役なので、加圧トレーニングで体を鍛えています。だいぶ筋肉つきましたよ。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:20代前半のとき、大阪の近鉄劇場で見た『上海バンスキング』。吉田日出子さんという女優さんの存在感に圧倒されました。
Q:もし、俳優になっていなかったら?
A:会社員は勤まってないでしょう。強いていえば大阪で違法DVDをセッセとコピーしたり、偽ブランド品を売ってるかもしれませんね。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

とにかく今、毎日いろんなところでいろんなお芝居をやっていますから、自分が本当に楽しめる公演を探すのは大変ですよね。だからこそ、いいタイミングで面白いと思えるお芝居に出会ったときは、その出会いを大事にしてほしいですね。そういうときは、2回目、3回目を見ても面白いですよ。「今日は前列で見てみよう」とか、「今日はストーリー重視で見てみよう」とか、いろんな楽しみ方ができるのは、演劇ならではですから。

これから演劇をしようと思っている人へ

よく「向き不向き」っていいますけど、こと俳優に関しては、そういうものの見方はしないほうがいいんじゃないかと思いますね。そりゃ、演出家の要求を器用にこなせるに越したことはないけど、こなせないときもあるでしょうし、そういう人にはその人なりのやり方があるはずだと思うんです。いろんな人がいていいと思うんですよ。だから、「自分は役者に向いてない」というのは、あまり思わないほうがいいんじゃないでしょうか。

板尾 創路さんの次回公演情報

「シュート・ザ・クロウ」の画像画像を拡大する
シリーズ・同時代【海外編】Vol.2 「シュート・ザ・クロウ」

新国立劇場の『シュート・ザ・クロウ』は、現代海外戯曲を日本演劇界の若手が演出する「シリーズ・同時代【海外編】」の第2弾。北アイルランドを代表する劇作家オーウェン・マカファーティーの戯曲(日本初演)を演出するのは、劇団ONEOR8を主宰し、外部公演やテレビの脚本も手がける田村孝裕。これに板尾 創路柄本佑阿南健治平田満の4人の個性派俳優が体当たりする。タイル貼り職人4人の不思議なユーモア漂う会話劇の妙に酔え!

2009年4月10日(金)~4月26日(日)
新国立劇場 小劇場
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)

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