【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.48】井上 芳雄『ミュージカルに出会えたことは僕にとってこの上ない幸運でした』(掲載開始日:2009年2月12日)

井上 芳雄(いのうえ・よしお)
1979年7月6日生まれ、福岡県出身。小学生のころ、福岡で観た劇団四季キャッツ』に感銘を受けてミュージカル俳優を志す。東京芸術大学在学中の2000年、帝国劇場『エリザベート』のルドルフ皇太子役に抜擢され、舞台デビュー。ミュージカル界のプリンスとして注目を浴びる。以降、その高い歌唱力と存在感で数々のミュージカル作品に出演。また、ストレートプレイや映像などにも活動の幅を広げ、CD制作、コンサートなどの音楽活動にも意欲的に臨んでいる。

恋愛にたとえるなら、ミュージカルは僕にとって運命の女性との出会いでした (井上 芳雄)

人生最大の転機といえば小学4年生のとき、劇団四季の『キャッツ』の福岡公演を家族みんなで観に行ったことに尽きるでしょう。舞台装置の面白さから、俳優さんたちの歌や踊り、演技に感動し、最後の「メモリー」を聞いたときには涙が出そうになっていました。

この体験を恋愛にたとえるなら、運命の女性と出会ったのと同じようなものと言えるかもしれません。とにかく、その日を境にミュージカル俳優になりたい、『キャッツ』の舞台に立てるような人になりたい、そう思うようになっていました。

まずは、月刊ミュージカルという雑誌を毎月購読して、ボロボロになるまで熟読したり、『ウエストサイドストーリー』や『コーラスライン』といった映画を繰り返し観て、ミュージカルというものの知識を吸収することから第一歩をはじめました。

中学生になってからは、ジャズダンスのスタジオに通ったり、声楽の先生の指導を受けたりして、いよいよ実践的になっていきました。

東京芸術大学の声楽科に進んだのも、音大の頂点といえる学校で学ぶことが、ミュージカル俳優になるために役にたつと思ったから。ただ、はっきり言って、僕の存在はかなり浮いていたと思いますよ。それも当然で、まわりはクラシックのオペラ歌手を目指す人たちばかりでしたからね。

でも、小学4年生から10年間、願い続けたデビューのきっかけは意外なことに、この学校に通っていたからこそ、やってきたとも言えるんです。2年生のとき、宝塚歌劇団の演出家の小池修一郎さんの特別授業を受けたんですよ。

小学4年生から10年間、思い続けて念願のデビューを果たしたとき (井上 芳雄)

その授業で、小池さんが生徒に「将来、どのような活動をしたいか」と質問をしたんです。発言の順番がまわってきたとき、僕は待ってましたとばかりに「ミュージカル俳優になりたい」と答えました。すると、小池さんが僕にこうおっしゃったんです。

宝塚歌劇団で上演した『エリザベート』を、帝国劇場で舞台化することになっているんだけど、ヒロインの息子の皇太子ルドルフの役がまだ決まっていないんだ。オーディションを受けてみる気はないか?」と。

それで、運試しのつもりで受けたそのオーディションをきっかけに、すべてがトントン拍子で進んでいったんです。

でも、それはゴールではなく、憧れの舞台に立ち続けるにふさわしい存在になるため、無我夢中で走り続ける毎日の始まりでもありました。ミュージカルというのは、歌をうたうことはもちろん、ダンスもできなければならないし、同時にお芝居においては演技力も問われます。それらすべてを完璧にこなせる俳優になるというのは正直なところ、かなり難しいことで、日々の努力が欠かせません。

それでも途中であきらめずにここまでやってこれたのは、やはりミュージカルが好きだったからだと思っています。だから、人生の早い時期に、それだけ好きになれるものと出会えたことは、僕にとって、とてもラッキーなことだったと思います。

家族が僕のことを応援してくれ、協力してくれたこともありがたかったですね。母が先日、こんなことを言ったんです。「あなたがミュージカル俳優になるという目標を持ってからは、子育てがとても楽だったよ」と。

僕を成長させてくれた数々の出会い。そのひとつひとつを大事にしたい (井上 芳雄)

『エリザベート』の3カ月間の公演が成功に終わり、ルドルフ役を演じた僕は、「ミュージカル界のプリンス」と呼んでいただけるようになり、その後もいい役をいただけるようになっていきました。

ですが、あまりに物事がうまく運んでいく反面、数々の出会いの中で、自分の実力のなさに愕然とすることもありました。

例えば、蜷川幸雄さん演出の『ハムレット』に起用され、歌や踊りなしのストレートプレイに初めて挑戦したときは、まさにそういう出会いのひとつでした。「お前の演技にはミルクの匂いがする」と蜷川さんに言われたときは、ミュージカル俳優を一途に目指してきた僕の弱点を言い当てられたような気がしました。とにかく強烈な「蜷川体験」でしたね。

今回の『届かなかったラヴレター』で共演するクミコさんとの出会いは、『わが麗しき恋物語』という曲に感動して、ファンとしてコンサートに通うようになったのがきっかけ。その後、思いがけずコンサートで一緒に歌う機会をいただくようになったんですが、僕にとっては「クミコさんのように歌えたらいいな」という憧れの人なので、同じ舞台に立つたびに緊張するんです。それでも今回、クミコさんとふたりで舞台をつくるというチャンスをいただいたときには、緊張する以上に、この舞台をきっかけに僕が学ぶことは大きいだろうなというワクワク感のほうが大きいんです。

そんな出会いのひとつひとつを、これからも大事にしていきたいですね。

井上 芳雄さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:最近、オカメインコと同居を始めたんです。ペットの写真をまわりの人に見せる人の気持ちがわかるようになりました。
Q:落ち込んだときに食べるパワーフードは?
A:料理は好きで、日ごろからいろいろな料理を作るんですけど、具だくさんのみそ汁は欠かせないですね。
Q:最近、驚いたことは?
A:同郷の親友に頼まれて、ある女優さんのサインをもらいにお芝居の楽屋を訪ねたんですが、彼と一緒にドキドキでした。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

舞台を観にいくのって、気合いやきっかけが必要ですよね。だから僕の場合、「悩んでいる自分を励ましたい」とか、「頑張った自分にご褒美をあげたい」と思ったときに行くことが多いです。親しい仲の人と気軽に足を運ぶのもいいけれど、ひとりでじっくりその気分に浸るのもいいと思います。お芝居を観ながら、いろんなことに思いを馳せることもしばしば。たまにそれで話の筋がわからなくなったりもするんだけど、それでいいと思うんです。

これから演劇をしようと思っている人へ

とにかく、熱い想いを持ちながら、それを表現するための技術と経験を、バランスをとりながら得ていけばいいと思います。想い、技術、経験のすべてを持った俳優が、僕の理想です。

井上 芳雄さんの次回公演情報

「『届かなかったラヴレター』Vol.1」の画像画像を拡大する
ミュージカル仕立ての歌語り 『届かなかったラヴレター』Vol.1

シリーズ累計32万部を売り上げているベストセラー本『届かなかったラヴレター』が待望の舞台化! 「泣き歌の歌姫」ことクミコと、「ミュージカル界のプリンス」こと井上芳雄が、一般公募から選ばれた手紙の数々を見事に語り、歌い上げます。観に行きたい!という方は、ハンカチのご用意を。

東京公演 大阪公演
2009年2月17日(火)~2月18日(水) 2009年2月20日(金)
ル テアトル銀座 by PARCO 大阪厚生年金会館 芸術ホール
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK) ヘアメイク/川端富生 スタイリスト/樋口惠理子

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