- 段田 安則(だんた・やすのり)
- 1957年1月24日生まれ、京都府京都市出身。81年、青年座研究所を卒業し、劇団「夢の遊眠社」へ入団。92年の解散まで活動する。2007年には『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』、『タンゴ・冬の終わりに』の演技で第14回読売演劇大賞グランプリおよび最優秀男優賞、第6回朝日舞台芸術賞を受賞。2009年2月14日から紀伊國屋ホールで行われる『夜の来訪者』では、初の舞台演出に挑戦する。
高校時代、従兄弟に誘われて労演(勤労者演劇協会)という市民の演劇鑑賞団体に入りまして、大学生になってからはそこで公演の手伝いなんかのバイトをしていました。つまりは、ごく普通の演劇好きの青年だったわけですね。バイト先では、文学座の北村和夫さんに「ケーキ、余ってるから食べる?」なんて話しかけられたのを覚えていますね。
大学では、演劇サークルに入って活動していました。授業にはほとんど出ず、部室に入り浸っている毎日で。とはいえ大学を中退し、上京して文学座と青年座の研究生の試験を受けたのは、なかば運試しのようなものでした。2~3年くらい東京で遊んでくるのもいいかなという程度の気持ちです。
結果的に文学座は落ちて、かろうじて青年座の研究生になるわけですけど、四六時中、芝居と女の子のことばかり考えていればいいという生活は、本当に楽しかったですね。初めてのひとり暮らしをしたこともあり、これまでの人生で最も楽しい時期だったといえるかもしれません。
研究所での講義では、代々木公園を走ったり、マット運動や体操をやったり、能や狂言、日本舞踊といった伝統芸能を教わったりするんですが、そのうち、このまま青年座に残って芝居をやり続けていたいなと思い始めていました。
ところが残念なことに、座員として残ることはできませんでした。研究生のときは、そこそこいい役をいただいていたので期待はしていたんですが。
さて、どうしようと思っていたある日のこと。劇団「夢の遊眠社」が劇団員を募集していることを友人に教えてもらい、オーディションを受けたみたんです。
オーディションの合格の通知を電報で受けて、劇団を訪れたのは、それから数日後のことです。当時、「夢の遊眠社」の事務所はまだ東大のキャンパス内にありまして、一瞬、「しまった」と思ったのを覚えています。研究生ながらもいちおうは青年座という場所にいたのに、また学生演劇に逆戻りしてしまったのかと、ちょっと後悔したんですね。
ただ、今思えば「夢の遊眠社」はそのころ、若手劇団の登龍門と言われる紀伊國屋ホールに進出した直後で、学生演劇からプロの劇団に羽ばたいていこうとしていた矢先でした。実際、その3年後には、年間100ステージを達成したばかりか、関西公演も行うなどして、その存在がいっきに広がっていきました。
まぁ、それでも自分がプロの俳優になったんだと実感できるようになったのは、ずいぶん先のことでした。確か30歳を過ぎたあたりだと思いますが、出演料が振り込まれる銀行預金の残高が100万円になったんです。そのころの生活水準の尺度でいえば、1年間バイトをしなくても家賃と食費をまかなっていけるほどの金額です。
またそのころは、蜷川幸雄さん演出の『リア王』に出演したり、テレビや映画の仕事をするなど、劇団から離れたところでも貴重な経験を積める機会が増えていました。
特に、35歳のときに劇団が解散してからは、「自分はこういう役者なんだ」と型にはめず、できることなら何にでも挑戦しようという気持ちでやってきたように思います。
ですからここ数年、舞台の仕事が増えているのも自分から意図したわけではないんですが、50歳の誕生日の日に第14回読売演劇大賞のグランプリと最優秀男優賞という素晴らしい賞をいただいたことは光栄でした。僕の俳優人生の大きな節目になったような気がしますね。
『夜の来訪者』との出会いは、まだ芝居を見始めて間もないころ、京都の市民劇団が上演したのを見にいったんです。
面白い芝居だなぁと思いまして。
裕福な実業家の家庭が、刑事と名乗る男の登場でバラバラになっていく心理サスペンス。ラストのどんでん返しにも驚かされました。
それで、2009年のシス・カンパニー公演でやる演目を探していたとき、そのことを思い出して提案したんです。
ただ、その時点でその公演に僕は俳優としてたずさわるものだとばかり思っていたんです。だから、プロデューサーから「誰に演出してもらったらいいか、いろいろ考えたけど、いっそのこと、提案したあなたが演出をやれば?」と言われたときは驚きました。
驚くと同時に、「やります」と勢いで答えていました。これまでいろんな経験を積んできましたが、舞台の演出は初めてのことですから、僕の気持ちの中で何かが動いたんでしょう。
その後、キャスティングにあたっては、演出家として最良と思えるメンバーを考え、それぞれにお願いしたんですが、みなさん快諾してくださったことには勇気づけられましたね。
ただ最後に、物語を左右する刑事役のキャスティングだけが難航したんです。いろいろ考えたんですが、「今回は、演出家に徹するつもりでしたが、刑事役は僕がやります」ということになりました。
演出が初めてならば、企画からはじまって公演最終日まで、1年の長い時間をひとつの公演に没頭する経験もこれが初めてです。僕にとって学ぶものは大きいでしょう。もしかしたらこれがきっかけとなって、大きな転機が訪れるかもしれませんね。
取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)











