【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.42】北村 有起哉『劇団という船と船との間を渡り歩く旅人 それが僕のスタイル』(掲載開始日:2008年12月25日)

北村 有起哉(きたむら・ゆきや)
1974年4月29日、東京都出身。1998年11月、舞台『春のめざめ』と映画『カンゾー先生』にて同時デビュー。以後、舞台、映画、テレビと幅広く活動する。特に舞台は30本を超える公演に参加。主役・脇役、ジャンル、キャラクター、劇場のキャパシティー、時代性などの境界線に一切とらわれない表現力でその振れ幅の大きさを縦横無尽に体言している。父は文学座の名優だった北村和夫氏(故人)。

高校時代の学園祭で初めて演劇の楽しさを知りました (北村 有起哉)

今から20数年前、僕が小学生だったころの話です。父が主演したシェイクスピアの四大悲劇のひとつ『オセロー』に連れていってもらったんです。この劇は、オセローという男が、妻のデズデモーナを嫉妬に狂って刺し殺し、最後に妻に口づけをしながら自殺をするんですが、その場面で僕は、「やめろー」と叫んでいたんです。父が劇中の登場人物を演じているということが理解できず、母ではない女性と接吻していることが許せなかったんでしょうか。幼かっただけに、僕自身はよく覚えていないんですが。

そんな少年でしたから、高校生になってもバスケットに明け暮れる体育会的な毎日で、俳優になろうなんてことは、少しも思っていませんでした。

ところがある日、クラスの女子たちの提案で、学園祭で演劇公演をやろうということになったんです。僕はまったく乗り気ではなかったんですが、どうせやるなら恥ずかしいことはしたくない。そこで、「ジャッキー・チェンの活劇をやったらどうだ」なんてあれこれ口出しするうち、気づいたらどっぷりその公演に参加することになっていました。

結果は上々で、校内でも評判をとっただけでなく、翌年にも『仁義なき戦い』を下敷きにしたお芝居を上演して好評を得まして。

それが僕に「演劇って面白いな」と思わせてくれた、最初の体験でした。

将来について真剣に考えたとき、浮かんできたのが父の姿でした (北村 有起哉)

高校卒業後は人並みに大学生になって、楽しいキャンパスライフを送ろうと思っていたんですが、あまり熱心に勉強していたわけではなかったので受験には失敗。そこで初めて、自分が将来、何になるべきかを考え始めたわけですが、もともと「いい大学に入って、いい会社に入れば幸せな人生をおくることができる」という考え方は幻想だと思っていたので、大学受験に固執していたわけではありませんでした。

そこで浮かんできたのが父の姿で、若いころからずっと好きな芝居をやり続けながらも一家の大黒柱として、祖父と母と僕と二人の姉と犬一匹の生活を支えてきた人生に尊敬というか、憧れのようなものがあったのかもしれません。「俳優になる」という気持ちになったのは、僕にとって自然なことでした。

ただその後、日本映画学校という専門学校に通ってみたり、俳優養成所に入ってみたり、芸能プロダクションに所属してみたり、俳優になるための第一歩を踏みだそうといろいろなことをするわけですが、飽きっぽい性格のせいか、すべて長続きしないんです。もちろん、劇団のオーディションを受けて劇団員になるという選択肢もあったんですが、そのために当時、勢いのあるといわれる劇団の公演を見ても、「ここだ」と思えるような劇団は見つかりませんでした。

その結果、劇団という船には乗らず、ひとりボートを漕いで、船と船との間を渡り歩く毎日がはじまるんですが、ある意味それは、僕から望んでいたスタイルだったのかもしれません。

いつも「お邪魔します」という気持ちで公演に関わる以上、変なことはできない反面、まわりの顔色をうかがってばかりではダメで、言うべきことを言い、やるべきことをやり通さないといけません。謙虚さと自己主張を同時に求められるわけで、いつも新鮮な気持ちでいられるんです。

野田(秀樹)さんとの印象的な出会い。こういう出会いを大事にしていきたい (北村 有起哉)

こうしてデビューから11年間、舞台だけでも30本を超える公演に携わらせてもらいましたけど、自分から手を挙げて船に乗せてもらうこともあれば、むこうから誘っていただいてしばらくの運命を共にすることもあり、出会い方はそれぞれです。

どれも刺激的な出会いばかりでしたが、今までやったことのない役に誘っていただくことは、とてもうれしいことで、自分にその役ができるんだろうかと不安を感じる以前に、「北村くんならできるだろう」と期待してくださったその思いに応えようとワクワクできるんですね。

野田(秀樹)さんとの出会いも、印象的な出会いのひとつでした。

まず、鬼ごっこやボール遊び、椅子取りゲームなどを取り入れたワークショップオーディションを基盤に芝居を作っていくというところがユニークだし、稽古中も、そのシーンに参加していない俳優でも「こうしたほうがいいんじゃないの」と意見することができる自由な雰囲気が印象的でした。演出家と俳優との垣根が、いい意味であいまいなんですね。

それが2003年のNODA・MAP第9回公演『オイル』に出演させてもらったときの率直な感想なんですが、再び『パイパー』でご一緒できる機会をいただいたことはとてもうれしいこと。機会というものは、自分でいくら強く望んでいても、そのときのタイミングで合わなかったりすることがあって、「運」とか、人の「縁」のようなものがそこに深く関わっていると思うんですね。だから、いただいた機会は大事にしなくてはいけないし、できることなら、『オイル』のときには出せなかったかもしれない、この5年間の武者修業の成果を発揮したいと思いますね。

北村 有起哉さんへQ&A

Q:最近、面白かった本は?
A:『小沢昭一的新宿末廣亭十夜』。僕の大好きな新宿という街が鮮やかに語られていて、目を開かれました。
Q:最近、ハマってることは?
A:通販番組で「ニュースーパー風呂バンス1000」という商品が気になってるんですけど、買うのを我慢するのにハマっています。
Q:最近、驚いたことは?
A:自転車に乗ろうとすると、いつもハンドルにキリギリスやカマキリが必ずとまってるんです。僕の前世は花なのかな。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

僕が演劇を見るときに最も気にするのは、台本。本屋さんに行けば、さまざまな戯曲が出版されています。実は戯曲って、すごく読みづらいんだけど、本谷有希子さんや松尾スズキさんの本などは、読むだけでも楽しめると思います。こういうものをいくつか読んでおくと、演劇の世界に浸る手助けになると思います。もちろん、これから観る公演の本をあらかじめ読むことができれば、理解も深くなり、より面白くなるのではないでしょうか。

これから演劇をしようと思っている人へ

これは、父がたまに言っていた言葉なんですが、俳優に大切なのは「運、鈍、根」だというんですね。運と根(根性)についてはすぐわかったんですが、「鈍」を理解できたのは最近で。つまり、敏感になりすぎて萎縮してしまうのはなく、ある面では鈍感になって物事を陽気に楽しむことが大切だということだと思うんです。好きで始めたことなんだから、最後まで楽しめと。自分自身、肝に銘じています。

北村 有起哉さんの次回公演情報

「パイパー」の画像画像を拡大する
NODA・MAP第14回公演 「パイパー」

野田秀樹の待望の新作『パイパー』が、2009年の幕開けとともに上演される。舞台は今から1000年後の火星。その世界を懸命に生きるダイモス(松たか子)とフォボス(宮沢りえ)姉妹を中心に、人類の夢とその変貌を描く。橋爪功、大倉孝二、佐藤江梨子などの共演者とともに、北村有起哉がどんな印象深い演技をするのか、乞うご期待!

2009年1月4日(日)~2月28日(水)
Bunkamuraシアターコクーン
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/庄司直人(TFK)

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