- 初音 映莉子(はつね・えりこ)
- 1982年3月24日、東京都出身。16歳でデビューし、CMなどで活躍する。99年にはドラマ『ラビリンス』で女優デビューを果たし、以後、映画『うずまき』、『押切』などのホラー映画をはじめ、ドラマ『サトラレ』、映画『1303号室』など、さまざまな役柄をこなす。2008年は『あなたと私のやわらかな棘』をはじめ5本の舞台に出演し、演劇界からも熱い視線を浴びている。
私がデビューしたのは、中学生の頃、遊びに行った原宿で、ある芸能プロダクションの方にスカウトされたのがきっかけでした。
実はウチはすごく厳しい家庭だったので、原宿に出かけたことは親には内緒にしていたんです。だから当然、そのことは黙っていようと思っていたんですが、何かのはずみで父にポロッと話してしまったんです。その結果、家の中は嵐がやってきたかのような大騒ぎになりました。
「芸能界は厳しいところだ。お前なんかにつとまるはずがないだろ!」と激怒する父。でも、反抗期だった私はその言葉に反応してしまったんですね。「やってやるわよ!」と、そのころあまり興味を感じていなかった芸能界を気にするようになったんです。
とはいえ、当時私は16歳と若く、おまけに自分の意見を人前で主張するような性格ではなかったものですから、デビュー後は苦労の毎日でした。ドラマに出演したときも、ただ監督さんの指示を聞くので精いっぱい。「この役は、どういう人だと思う?」と聞かれても意見をいえず、演技でそれを表現しようにもその手段さえわからない状態でした。今思えば、周囲に心を開かないあやつり人形のようなもので、周囲に対してだけでなく、自分が自分を縛っているような感じだったように思います。
演技をするということは、例えば台本に「恋人」と書かれた人相手に恋をしているような気分にならなければならないわけで、会って間もない人にそういう気持ちになれと言われても、なかなかむずかしいですよね。今でも完璧とは言えないですけど、あのころは特に、演じるということのむずかしさに四苦八苦していました。
10代はずっとそんな感じの私でしたから、演劇の世界との出会いは、強烈なカルチャーショックでした。
まず、テレビや映画と違って、1カ月もの長期間、稽古をすることには驚きました。出演者の皆さんがおのおのジャージなどを着て、決められた場所に集まり、ストレッチや準備体操、発声練習をしたりする様子は、学校の体育の時間みたいだな、なんて思ったり(笑)。
でも、そういう経験を通じて、「体を動かして温めたり、筋肉の緊張をほぐすと声が出やすくなるんだな」という当たり前のことを、ひとつひとつ学べたような気もするんです。
そんな中、KERA・MAPの公演『ヤング・マーブル・ジャイアンツ』に出演したことは、とても印象的でした。吉祥寺シアターのこけら落とし公演の第2作目ということで、35人の出演者が舞台に登場する大きなお芝居です。風変わりだったのは、オーディション前の一次審査で「私とケラリーノ・サンドロヴィッチ」という題名の作文を書くことになっていたこと。当然のことながら、提出日ギリギリまで悩みまして、その結果、思いついたのが、「そういう題名のお話を書けばいいんだ」というアイデア。
簡単に説明すると、安アパートに住む喫茶店のウエイトレスの「私」が、いつもやってくる常連のおじさんを見て、それが「ケラリーノ・サンドロヴィッチ」という人だということに気づくまでのお話。どうやらそれが受けたようで、面接ではその作文の話で盛り上がって、出演者のひとりになることができました。
私は自分を主張するのが苦手なだけでなく、実は集団生活も得意ではないんですが、そんな私にこの舞台は、逆療法のような作用を与えてくれたのでしょう。大勢の人たちが集まってひとつの舞台を作っていく魅力をこのとき、初めて知ったような気がするんです。
KERAさんの演出は、セリフの言い方や体の動き方を細かく指示するようなことはなく、ある程度、役者に自由に演じさせて、少しずつそれに影響を与えるようなやり方なんですね。だけど、まるっきり自由にやっているかというとそうではなくて、あとから気づいてみると、KERAさんの思うがままだったりするんです。その創造力、演出力には驚かされました。
実際のところ、私がどれだけKERAさんの期待に応えられたかはわかりませんけど、これがきっかけとなってその後、本谷有希子さんが『無理矢理』という公演に私を起用してくださったり、いろんなことが動き出したんです。
そして、2008年という年は、年末に出演する『夢をかなえるゾウ』を含めて、計5本のお芝居に出演させていただくことができました。特に、9月の『偶然の音楽』(構成・台本・演出:白井晃)と、10月の『あなたと私のやわらかな棘』(作:牧田明宏 演出:中屋敷法仁)は、公演と稽古が並行していたこともあって大変でした。『偶然の音楽』ではアメリカ人の娼婦を演じ、『あなたと私のやわらかな棘』では殺人犯に間違われる謎めいた女性を演じたんですが、この時期、私自身のことはまったく考えることができませんでした。
ひとつの役を演じることになった途端、俳優は稽古中や本番中だけでなく、プライベートでもその役のことを考えていたりするもの。本番にむけてケガや病気に気をつけることはもちろんですが、つねに演ずる人物について、「この人ならこういうとき、どんな風に感じるんだろう」なんて考えてしまう。笑ったり泣いたり、人生経験が豊かであることがそのまま表現に結びつく俳優という仕事、奥が深いだけに面白いし、やりがいがあるなと思いますね。
取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)











