大学に入学する直前のことでした。
新聞で劇団☆新感線を紹介した記事を読みまして、そんな面白い劇団があるんかと興味をもって、公演を見にいったんです。演目は、『熱海殺人事件』。まだ劇団が、つかこうへい作品を中心に上演していた初期のころで、当時4年生だった主役の渡辺いっけいさんも、学食とかでよく姿を見かける存在でした。で、「学生でもこんなにレベルの高い演技ができるのか」って、圧倒されたんですね。
その勢いで、劇団に入ったわけですけど。
とにかく皆さん、上手な人たちばかりなので、僕なんか何にもできないわけですよ。
当時の座長(いのうえひでのり氏)の演出はメッチャ恐ろしくて、テンポの速いセリフ口移しで一字一句、コピーせなアカンのですけど、それにぜんぜんついていけないんですね。それで、ひどい怒られ方をする日々の中で、いつ怒られないようになるのか、ということばかりを目指してきました。
もう、役を演じるということに自分が不向きなことは明白なんですけど、先輩たちに負けるのは仕方ないとしても、同級生や後輩にもかなわないのはくやしいじゃないですか。そんなくやしさをバネにして、闇雲にやり続けていたら20代が終わっていました。
だから、僕の20代に名前をつけるとしたら、「闇雲時代」ということになるんでしょう。ホンマ、そういう感じやったですからね。
30代以降も、しばらくはそんな状態が続きました。
かねてから計画していた語学留学のため、2年ほど休団させてもらった時期もありましたから、劇団に戻ってもなかば開店休業という感じだったんです。
そんなある日、公演の初日を終えて帰ろうとしたら、出口のところで座長に「ちょっと待て」と呼びとめられたんです。今思えば、待ち伏せやったと思うんですけどね。で、また何か怒られるんかと思っていたら、そのとき与えられた僕の小さな場面について、「明日から、何が何でもあそこで笑いをとれ」といわれたんです。
実は、そのころの僕は自分のできなさかげんに愛想をつかしていまして、その座長の言葉に「それは命令ですか」と突っかかったんですね。そしたら、「命令!」というじゃないですか。
結果的にこれが、僕の「闇雲時代」を終わらせるきっかけになったんです。座長の命令は絶対です。「お望みでしたらケツの穴を見せても構いません」くらいの意気込みでした。「そんなんはいらん」と、すぐに突っ込まれましたけど(笑)、そのときの僕は、その場面で笑いをとることだけに集中することができたんですね。心をまっ裸にしたわけです。
そうして一歩踏み込んで舞台に立ってみると、今まで自分がいかに物語を読めていなかったか、お客さんの反応との間合いを読めていなかったかがわかってきた。まぁ、そうはいっても僕の場合、気づきが実行に変わるまでには、さらに時間がかかるんですけど、それ以前とそれ以後では、あきらかに変わった自分がいました。
30代の「ガムシャラ時代」のはじまりでした。
とにかく僕は万事がこういう感じで、言葉や理屈で理解してもダメで、体験を通じてカラダで覚えていかないと身につかないんです。座長はそのことをよくわかっていて、僕をうまく動かしてくれたんですね。いくら感謝しても、したりないくらいです。
だから、僕の「ガムシャラ時代」は文字通り、与えられた課題をガムシャラにこなすことに専念する毎日でした。芝居を野球にたとえると、公演中はデッドボールでもいいから塁に出なアカン場面もあれば、空振りを覚悟でバットを振らなければいけない場面もあるわけですけど、その場その場でベストを尽くしてきました。
『髑髏城の七人』の「抜かずの兵庫」のように、何度も演じた役には思い入れも深いですけど、『直撃!ドラゴンロック』シリーズの「剣轟天」は格闘家の役なので、演じるたびにウエイトを10数キロしぼっているんです。今まで4回演じてきましたから、通算するとこの役のために70キロの贅肉が僕のカラダから出ていったことになります。いや、これは自慢話でもなんでもなくて、ええ加減、体型を維持しろよって話ですけどね。
そんなこんなで40代のなかばをむかえようとする今は、いうなれば「ひたすら時代」。とにかく、芝居以外のことはまったく考えていない生活で、自分から芝居を除いてしまったら、家で飲み食いするか、コンビニで買い物してるだけの人間になってしまうでしょう。
ただ、納得する芝居ができたなと思うときは数えるほどしかなくて、悔しくて、嫁に手紙を書いて家出したくなるときもあるんです(笑)。それでも、そういうときがあるからこそ、「次は頑張ろう」とここまでやり続けてこれたんでしょうね。
- サンケイホールブリーゼこけら落し公演 「冬の絵空」
50年以上にわたり、関西の演劇文化を支えてきたサンケイホールがサンケイホールブリーゼとしてリニューアル。そのこけら落し公演として上演されるのは、劇団そとばこまちの伝説の名作と言われている『冬の絵空』だ。忠臣蔵を大胆な解釈でとらえ、元禄時代の核心を突いたエンターテインメント演劇。われらが橋本じゅんが、藤木直人、中越典子、生瀬勝久ら豪華キャストを相手に堂々たる存在感を見せつける。乞うご期待!
大阪公演 名古屋公演 2008年12月6日(土)~12月16日(火) 2008年12月19日(金)~12月21日(日) サンケイホールブリーゼ 愛知県勤労会館(つるまいプラザ) 広島公演 福岡公演 2008年12月23日(火) 2008年12月25日(木) アステールプラザ大ホール 福岡サンパレス ホテル&ホール 東京公演 2009年1月12日(月)~2月1日(日) 世田谷パブリックシアター
取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/松谷祐増(TFK)












