【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.34】戸田 恵子『本当に意味のある出会いは、あとから振り返って初めてそうだとわかるんですね』(掲載開始日:2008年10月30日)

戸田 恵子(とだ・けいこ)
1957年9月12日生まれ。愛知県名古屋市出身。
16歳でアイドル歌手としてデビューした後、77年に劇団・薔薇座に入団。看板女優として数多くのミュージカルに出演する。89年の退団後は、声優・女優としてテレビ・映画にも活躍の場を広げる。2007年からは「歌手プロジェクト」を開始し、生誕50周年アルバム『アクトレス』をリリース。現在、ニューCDシングル『泣き唄』が好評発売中!

華やかな芸能界から劇団員生活への転身。何も知らなかったから受け入れられた(戸田 恵子)

私が舞台と出会ったのは、鳴かず飛ばずのアイドル歌手時代、「他の仕事につこうかな」と思っていた矢先のこと。劇団薔薇座を主宰する野沢那智さんが、「まだ頑張りたい気があるなら、ウチの劇団でやってみない?」と誘ってくださったんです。

当時、私は19歳。それまで女優になるという意識はまったくなかったものですから、興味を持って演劇やその仕組みに触れたのは、そのとき観た薔薇座の公演が初めてでした。だから、演技やダンス、歌のレッスンを受けながらの研究生生活は、何もかもが新鮮でしたね。衣裳を自分たちで縫ったり、大道具や小道具をなぐり(金槌)で叩いたり、チケットノルマを与えられてお客さんを呼んだりする経験も、今思えばそんなに楽なものではなかったと思うんですが、何も知らなかったからすべてを素のままで受け入れられたんです。

芸能界の華やかな世界と比べたら、地味このうえない世界ですけど、ひとつひとつの公演を手作りで作っているという手応えがあって、楽しかった。むしろ、運とか事務所の力関係といった不確定要素が成功に結びつく芸能界と違って、演劇は生身の体ひとつで舞台に出なくてはならない分、本当の実力がなければ通用しません。そこに、「よし、頑張ろう」と思わせてくれるものがあったのかもしれません。

もちろん、演劇の世界でも運は大事だと思うんですが、私の場合、すごく運はよかったと思うんです。野沢さんは、演劇に情熱をもった厳しい方で、基礎からみっちり仕込んでもらったということだけでも貴重な経験でしたし、公演でもたくさんのチャンスをいただきましたから。

生活のために始めた声優の仕事だったけど、挫折の連続でした(戸田 恵子)

結局、薔薇座には12年も在籍するわけですが、当然、それだけで生活していくだけのお金を稼げるわけではなく、アルバイトをしなければなりませんでした。ただ、ここでもラッキーだったのは、劇団主宰者の野沢さんが「演技で稼げるなら、それに越したことはない」ということで、アニメや洋画吹き替えの声優のお仕事を紹介してくださったんです。

ただ、今のように声優になるための特別な訓練をする専門学校などなかった時代の話です。何も知らずにスタジオに放り込まれた私は、そこで要求される演技のレベルの高さに圧倒されて、挫折、挫折の連続。生活していくためのアルバイトという軽い気持ちでいたのがそもそも間違いだったんですね。20回もNGを出して、先輩たちを待たせてしまう場面があったりすると、そんな気持ちではいられないことに気づきました。何度も「私には無理です」と訴えたんですが、そのたびに励まされ、監督さんにも次の作品で呼んでいただいて、なんとかやってきた感じ。

だから、『それいけ!アンパンマン』のアンパンマン役に起用していただいたときは正直、「なぜ私に?」と思ったんです。幼児対象の番組は経験がありませんでしたし、それまで気の強い女の子とか、元気のいい男の子という役を多くやっていたので、丸顔のストレートな正義漢のアンパンマン役が果たして自分につとまるだろうかという不安が先に立ってしまったんです。

それが、かれこれ20年以上も前の話。役者にとって、それだけ長く続けられる当たり役に巡り会うのは滅多にない、幸せなことなんですが、本当に意味のある出会いは、あとから振り返って初めてそうだとわかることで、そのときには気づかないことが多いんですね。

50歳を過ぎて、本気で歌手を目指す。不安もあるけどワクワクする毎日です(戸田 恵子)

実は、三谷(幸喜)さんと出会ったときも、それがその後、私をテレビや映画の世界に導いてくれる重要な出会いだとは思っていなかったんです。実際、連続ドラマ『総理と呼ばないで』の総理の秘書役に誘われたときは、一度、ご辞退しているんですよ。

当時、私は39歳で、テレビドラマという新しい分野に一歩を踏みす勇気が持てなかったんですね。今思えば、なんておこがましいことだろうと思うけど、性格的に私は、「石橋を叩いて、それでも渡らない」という面があるんです。でも、三谷さんは私の舞台を観てお花を贈ってくれるほど応援してくださっていて、その後も根気よく私を説得してくれました。「戸田さんが知っている舞台の役者さんもたくさん出演していますし、戸田さんのことをずっと観ている僕が書くんだから、安心してやってください」って。

おかげで私は、本当に充実した40代を送ることができました。テレビに映画に、舞台に、それまでやってきた経験がすべて生かされた気がしました。三谷さんには本当に感謝しています。

そんな私も2007年に50歳になって、「10代であきらめた歌手の道に、もう一度チャレンジしたい」と思ったときは迷いませんでした。単なる記念として歌手をやるんじゃなくて、本気で活動を始めるんだと。レコード会社さんにも、自分の言葉でその気持ちをアピールしました。

新しいことを始めるときって、不安はあるけど、逆にワクワクする新鮮な体験ですよね。今回の『グッドナイト スリイプタイト』も、私にとっては初めての二人芝居で、とても楽しみなんです。私もやっと、初めての体験を素直に楽しめるようになったのかなと思うと、そのことがとてもうれしいんです。

戸田 恵子さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:歌手活動をきっかけに始めた、オリジナルグッズ作り。ジャンバーやバッグなどデザインを考えるのが楽しい。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:70年代、中村伸郎さんが渋谷のジァン・ジァンで上演したウジェーヌ・イヨネスコの『授業』。何度も通いました。
Q:落ち込んだときに食べるパワーフード
A:やっぱり、焼き肉。完璧にダウンしていると食べられないけど、「ちょっと疲れてるなぁ」というときは本当においしいですね。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

お芝居の醍醐味って、役者が目の前で役を演じるという臨場感にあると思うんです。その意味では、音楽のコンサートやお笑いライブ、サーカスの公演など、すべてに共通する魅力があります。私は、少しでも時間があると、ライブに行くんですが、いつも元気をもらえるんですよ。気持ちが沈んでいるときでも、「世の中にはこんなにすごい人がいるんだ」って、目の前のパフォーマンスに感動するだけで前向きになれるんです。

これから演劇をしようと思っている人へ

とにかく、チャンスがあれば何にでも挑戦するってこと。それが果たして、将来のために役に立つかどうかはわからなくても。役に立つかどうかは現時点ではわからないものなんです。だけど、目の前のことに無我夢中でやり続けてきたことは、思いがけない場面で役に立ったりする。私自身、歌手、舞台女優、声優とやってきたことが「無駄な経験ではなかったな」と思えたのは、ずっとあとのことでしたからね。

戸田 恵子さんの次回公演情報

「グッドナイト スリイプタイト」の画像画像を拡大する
「グッドナイト スリイプタイト」

三谷幸喜待望の舞台最新作がパルコ劇場にて上演される。ひと組の夫婦の様子を30年間にわたって描く、可笑しくて切ない、大河ラブストーリー。演じるのは、三谷作品に欠かせない女優 戸田恵子と、シリアスからコメディまでこなす名優 中井貴一。戸田恵子が初めて挑戦する「二人芝居」ということもあって、見所たくさんの舞台になりそうだ!

東京公演 大阪公演
2008年11月18日(火)~12月28(日) 2009年1月6日(火)~1月20日(火)
パルコ劇場 サンケイホールブリーゼ
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK) ヘアメイク/江島モモ スタイリスト/相場広美 衣装協力/ユキ トリヰ、アビステ

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