私は覚えていないんですけど、幼稚園に通っていたころ、木馬座の舞台を観て興奮して、客席に下りてきた出演者と一緒にステージにあがり込みそうになって止められた、ということがあったそうです。
かといって、そのころから演劇だけに特別な興味を持っていたわけではなく、小学生のときは噺家になりたいと思っていました。テレビで放映された落語をラジカセのテープに録音して、書き起こして、実演したりするような小学生。でも、頭の片隅には「やっぱり落語は男性がやったほうがカッコいい」なんて生意気な考えもあって、中学生からは演劇部に入部しました。
そのまま高校、大学と演劇を続け、在学中に自転車キンクリートを結成するわけですけど、プロになろうとしていたわけではありません。日本女子大学附属高校は女子校ですから演劇部に女性しかおらず、演目には制限があったので、大学に入ったら男性と一緒に男性の出てくる芝居がやりたかったというのが旗揚げの理由のひとつ。それから高校時代、外部からのコーチとして教えてくださった永井愛さんが大石静さんとニ兎社を旗揚げしたのに影響され、自分たちにもできると思ってしまったんだと思います。
その意味で私のターニングポイントになったのは、大学4年生のときに1年間、蜷川幸雄さんが主宰する蜷川スタジオに所属したことですね。ここで私は、プロとして演劇にたずさわる方々のすごさを目の当たりにすることになるんです。感銘を受けたのは、彼らの仕事への責任の持ち方。万全の準備をして稽古場に向かう蜷川さんはもちろん、スタッフや俳優も集まる前にはできる限りの準備をするんです。これがプロとして演劇にたずさわるということなんだなと学びました。
大学卒業が迫ったとき、いちおう就職活動はしたんですが、受かりようもないところばかり受けたこともあって就職はしなかったんです。バブル真っ盛りの売り手市場だったから、30歳になってからでも働けるんじゃないかと暢気に考えられる時代でしたし、プロとして演劇にたずさわったいる方々の現場を蜷川スタジオで目にしたことも大きかったと思います。
それから大学を卒業して間もないころ、私に「プロになる」ということを強く意識させられる出来事が起こりました。紀伊國屋ホールから、「公演をしませんか?」というお誘いをいただいたんです。当時、小劇団にとって「紀伊國屋から声がかかる」ということは、メジャーな劇団と認められるに等しいんですが、ところがそれを「いいです」って断ってしまったんです。当時の私たちは、舞台を額縁のように区切るプロセニアム・アーチの劇場ではなく、ちょっと変わった劇場で上演することに興味があったんですね。ですから、大それたことをしたとは思っていませんでした。
ところが後日、紀伊國屋ホール総支配人で、名物興業主として知られる金子和一郎さんが私を食事に呼んでくださって、こんなことをおっしゃったんです。「紀伊國屋ホールでやるということは、『私たちはプロとしてやっていく』ということのお披露目になると思いますよ」と。言葉はすごく丁寧で、物腰もやわらかにおっしゃったんですけど、私には「あなたはプロでやっていくのかどうか、考えるべき時である」と問い詰められたように聞こえました。
大学を卒業したばかりの小娘を大人として扱ってくださったことはとてもありがたく、売られたケンカは買ってやろうと(笑)、お誘いをお受けすることにしました。
このように、私はいろいろな人との出会いを通じて、「それ以前」と「それ以後」の考え方が変わるような体験をしてきました。
もちろん、作品との出会いからも多くの影響を受けました。中学生のころから観ている劇団民藝や、つかこうへいさん、蜷川幸雄さんの舞台を観たことがなかったら、今の私はなかったでしょう。
1993年、神宮球場で行われた高田延彦VSスーパー・ベイダー戦も、「観る前」と「観た後」で確実に世界が違って見えるような体験でした。関節技をかけられているのを見て、どちらが痛いのかわからないような門外漢の私がその戦いを見て感じたのは、目の前で確実に“何か”が起こっているということ。それは中学生のとき、『おゝ、わが町』という公演で民藝の奈良岡朋子さんの演技から感じたことと同じものでした。どちらも虚構の垣根を超えて、真実が伝わってくるような体験でした。演劇、ライブアートは、“今”、“そこで”、“何か”を起こさなければ意味がないと、はっきり気づいた瞬間でした。
2008年12月、新宿コマ劇場ファイナル公演で『愛と青春の宝塚~恋よりも生命よりも~』を演出したとき、稽古場で似たような体験をしました。この作品は、第2次世界大戦中の宝塚歌劇団を舞台にしたミュージカル。ですから、俳優のみなさんはタカラジェンヌという女性を演じているわけですが、劇中で男役を演じるシーンが当然ながらあるわけです。彼女たちが女性から男役に変わった瞬間、「一体、何が起こったの?」と我が目を疑うような衝撃がありました。まるでそれは、本郷猛が仮面ライダーに変身したのを目撃したような衝撃でした。
そんな思い出深い作品を再演できるというのは、とても幸せなこと。また、新たな発見に出会えることが楽しみですね。
- 『愛と青春の宝塚~恋よりも生命よりも~』
2008年12月、新宿コマ劇場ファイナル公演として上演され、全国11万人が泣いた感動のミュージカル『愛と青春の宝塚~恋よりも生命よりも~』が2011年早春、新たなキャストとレビューを加えパワーアップして還ってくる!
第2次世界大戦中の宝塚歌劇団、どん底に突き落とされてもひたむきに生きていくタカラジェンヌたちの姿に、思いっきり笑って、思いきり泣こう。また、東京公演では2月14日~17日、大阪公演では3月19日~20日にアフタートークイベントを開催。舞台の裏話、ここでしか聞けない秘話が聞けるかも!?
出演:真琴つばさ、湖月わたる、彩輝なお、貴城けい、
星奈優里、陽月華、紫城るい、彩乃かなみ、
松下洸平、坂元健児、岡田浩暉 他
原作・脚本・原詞:大石静
演出:鈴木裕美
作曲:三木たかし
東京公演 浜松公演 2011年2月10日(木)~2月27日(日) 2011年3月3日(木) 青山劇場 アクトシティ浜松 大ホール 松本公演 仙台公演 2011年3月5日(土) 2011年3月9日(水) まつもと市民芸術館 主ホール イズミティ21 大ホール 熊本公演 大阪公演 2011年3月12日(土) 2011年3月19日(土)、20日(日) 崇城大学市民ホール(熊本市民会館) 梅田芸術劇場 メインホール 札幌公演 名古屋公演 2011年3月23日(水) 2011年3月26日(土)~27(日) ニトリ文化ホール(さっぽろ芸術文化の館) 愛知県芸術劇場 大ホール
取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)











