【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.107】橋本さとし『役者にとってもお客さんにとっても劇場の中のすべてが特等席なんです』(掲載開始日:2010年8月19日)

橋本 さとし(はしもと・さとし)
1966年4月26日生まれ。大阪府出身。89年、劇団☆新感線の公演でデビュー。その後も多くの作品に出演、96年の『野獣郎見参!』では主役を勤めた。97年に劇団を退団後は多方面で活動。特に04年、ミュージカル『ミス・サイゴン』のエンジニア役をオーディションで勝ち得て以来、『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャン役など大型ミュージカルで主演が続き、ミュージカルスターとして存在感を際立たせている。

音楽の勉強のつもりで始めた演劇に、いつしか夢中に (橋本さとし)

大阪芸術大学に入ったのは、演劇をやりたくて...というわけではないんです。もともと僕はバンドをやっていまして、ステージに立つ上で何か役にたつことが学べそうだと思って選んだ道。最初は演技・演出コースの専攻だったんですが、ミュージカルコースに面白い人がたくさんいまして、それが先輩の古田新太さん、橋本じゅんさん、それから高田聖子羽野晶紀など、後の劇団☆新感線の主要メンバーになる人たちでした。

つまり、大学と学部選びをしたことが、僕の最大のターニングポイントだったわけですね。

まずは、橋本じゅんさんの誘いである公演に出演したのがきっかけでした。この公演を観たいのうえひでのりさんに呼び出され、「キミ、背が高いな」と評価をいただきまして。演技ではなく、「背が高い」ことに対する評価だったことに若干の疑問は感じましたが、気がついたら稽古場で肉練に参加していました。肉練とは、劇団☆新感線で行われるトレーニングのこと。その後も見よう見真似で小道具を作っている自分がいたりして、あれはほとんど拉致監禁のようなものでしたね(笑)。

ただ、僕が入団した当時の劇団☆新感線は、昇り竜のような勢いがあるころで、ロックスターを目指していた僕は、そこに望んでいたものがあることに気づきました。音楽あり、笑いあり、エンターテインメントの素晴らしさがすべて目の前に広がっていたんです。次第に僕は、劇団での活動にのめり込んでいきました。

大好きな劇団を離れ、ひとりの役者として修業を始めたあの日 (橋本さとし)

劇団での毎日は楽しかったですね。役者としてこれといった技術を持たない僕でしたが、いのうえさんが面白い部分をうまく引き出してくれて、伸び伸びと演じることができました。

古田(新太)さんと(橋本)じゅんさんをはじめとするすごい役者を目の前にして、目標にできたことも僕にとっては幸運でした。ただ、その弟分として先輩たちの背中を追い続ける日々が続くうち、「こりゃ絶対かなわんな」と思わせられることもありました。

いのうえさんは、そんな僕の状態をちゃんと察知していたんでしょうね。『野獣郎見参!』という公演で「さとし、やってみろ」と主役に抜擢してくれたんです。「先輩たちにかなわないのは当たり前。それより、自分らしさを追求することが大事なんじゃないか」と気づくことができたのは、そのおかげです。目の前がバーッと開けたような体験でした。

そんな素晴らしい経験をさせてくれた劇団だけに、2年後に劇団を去るという決断をするときは未練がありましたが、「劇団☆新感線の橋本さとし」と見られることに、いつまでも甘んじるわけにはいかないということも、僕の中ではひとつの確信でした。

もちろん、劇団から離れ、ひとりの役者になってからはさまざまな苦労がありましたよ。自転車キンクリートSTORE『検察側の証人』に出演したときは、(鈴木)裕美さんに「何、そのデビルマンみたいなメイクは?」と指摘されました。劇団にいたころのクセが抜けず、つい濃いメイクをしてしまっていたんですね。

そうかと思えば、蜷川(幸雄)さん演出の『ハムレット』に出演したときは、劇団で築いてきたことがまったく通用せずに愕然としました。「小劇場のカラを破れ!」と何度怒鳴られたことか(笑)。

高いハードルに挑戦したことで自信を持つことができた (橋本さとし)

ミュージカル『ミス・サイゴン』のオーディションを受けたのは、僕にとっての大きな挑戦でした。小劇場育ちの僕にとって、収容人数2000人近くおよぶ帝国劇場は聖域とも言える大劇場であるとともに、エンジニアという役は市村正親さんが作り上げた伝説の役です。だから、抜擢されたときは喜びよりも、プレッシャーのほうが大きかった。でも、その重圧に打ち勝って、自分なりの演技ができたことは、大きな自信になりました。

その後、演出家のジョン・ケアードとの出会いは、新しい役者人生の始まりとも言える大きな出来事でした。名だたるミュージカル俳優が出演する『ベガーズ・オペラ』に僕を起用してくれたばかりか、『レ・ミゼラブル』では主役のジャン・バルジャン役を推してくれたんです。僕の力量では超えられないような高さのハードルを超えるチャンスを、常に与えてくれたのがジョンという人でした。

特に、『レ・ミゼラブル』のときには、決死の覚悟が必要でした。信じられるのは、「大丈夫」と僕を選んでくれたのがジョンという世界的な演出家なんだという事実だけ。でもそのおかげで、素晴らしい経験をさせてもらいました。役に扮して舞台に上がる僕たち役者は、ひとつしかない特等席を与えられているようなもので、ジャン・バルジャンという役を通して観たのは最高の景色でした。役者冥利に尽きるとは、まさにこのことですね。

ただ、その意味で今回出演する『W~ダブル』は、リシャールとミシェルという対極の性格を持ったふたりの男を演じる作品ですから、特別の経験になりそうです。ふたつの視点で芝居を見つめるわけですから、当然、難しい演技を要求されることでしょうが、それだけにやり甲斐は大きいです。ご期待ください。

橋本さとしさんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:子供のころから乗り物好きなんですが、つい
最近、フォード マスタングを買って夢中に
なっています。
Q:もし、俳優になっていなかったら?
A:「親父が商売人でしたから、弟子入りしてい
たかも。総菜を売っていたんですが、小さい
ころから手伝いもしていました。
Q:落ち込んだときに食べるパワーフードは?
A:演劇仲間とよく行くステーキハウスには格闘
家の写真がズラッと張ってあるんです。そこ
のステーキを完食すると力が出ます。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

最近、3D映像が注目を浴びていますが、演劇は究極の3D体験だと思うんです。目の前の役者が演技をするわけですからね。次の瞬間、何が起こるかわからない生々しさを是非とも味わってほしい。役者には、たったひとつしかない特等席が与えられていると言いましたけど、それはお客さんにとってもそうだと思うんです。すべての席が特等席なんですよ。

これから演劇をしようと思っている人へ

食えない劇団員だったころ、尊敬する橋本じゅん先輩がこんなことを言ってくれました。「俺らは金持ちやないけど、時間持ちや。贅沢に時間を使って、いろんな経験をしよ」と。じゅんさんの言う通りで、役者にとってあらゆる経験が糧になります。心の引き出しの中に、どれだけの経験がつまっているかで、役者の表現力はいくらでも幅広くなるんです。みなさんも、そんな豊かな時間持ちになってください。

橋本さとしさんの次回公演情報

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cube presents「W~ダブル~」

フランスのヒッチコックと称されるロベール・トマの最高傑作コメディ・サスペンスが、新訳&豪華キャストで蘇る!

演出・上演台本を担当するのは、スピード感とビジュアリスティックな演出で定評のあるG2。酒と賭博にあけくれる夫リシャールとの離婚を画策するヒロイン、フランソワーズに扮するのは中越典子。我らが橋本さとしは、危険な魅力をふりまく夫リシャールと、彼と瓜二つの容姿を持つ弟ミシェルの二役を演じる。想像を絶する結末に、あなたはもう笑ってはいられない!?

お問い合せ/キューブ03-5485-8886

オフィシャルホームページ

http://www.cubeinc.co.jp/

http://www.g2produce.com/other/double/

東京 名古屋
2010年8月17日(火)~8月29日(日) 2010年9月9日(木)
ル テアトル銀座 中京大学文化市民会館プルニエホール
大阪
2010年9月11日(土)~9月12日(日)
サンケイホールブリーゼ
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取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)

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