中学生まで「門限5時」という厳しい環境で育てられたせいでしょうか。高校生になって部活動に参加するのをとても楽しみにしていたんです。先輩の影響で選んだのが、演劇部。役者として舞台の上に立つということよりも、仲間と一緒にひとつの作品を創り上げていくことにやり甲斐を感じて、どんどんのめり込んでいきました。
でも、そのままずっと演劇を続けることになるとは思ってもいませんでした。そんな私が再び芝居に目を向けるようになったのは、韓国留学がきっかけ。あふれる思いを胸に抱いて海を渡ったつもりでしたが、日本に帰ってきたときの私の気持ちは、つかこうへいさんの「(韓国は)母国ではなく、祖国だった」という言葉に似たものでした。タイミングが悪いことにそのころ、恋愛のトラブルも重なって、最悪の精神状態だったんです。
そのとき、友人に「お前のどろどろした気持ちを吐き出すのは、演劇集団 円しかない」と誘われたんです。
オーディションで出会ったのが、円・演劇研究所の福沢富夫先生。人間味のある温かい目の奥に狂気を持った方で、「お前さんのすべてをさらけ出しなさい」と言われた瞬間、魔法に掛けられたように叫び、走り回っていました。入所後すぐに3日間の特別講座があるんですが、私にとってこれは、真剣に命を燃やすような体験でした。芝居をするには、テクニックを身につけるだけでなく、魂を磨くことが大事なんだということを徹底的に教えてもらったんです。
ヅメさんこと代表の橋爪功さん(劇団代表)との出会いも、私にとって深いものになりました。会員に昇格して間もないころ、一緒にお酒を呑む機会が訪れ、その席でいきなり泣かされたんです。緊張のあまり、お話はほとんど覚えてないのですが、在日として育ってきた私をあたたかく包みこんでくれる言葉だったような気がします。以来、ヅメさんには「泣き虫」で通っています。
演劇集団円の一員となったものの、何ごとも順風満帆だったわけではありません。実際、劇団員として初めて出演した『雨空』(久保田万太郎・作)では、着物の所作から三味線の稽古に苦労しました。
でも、ハードルはひとつのチャンス。このハードルを乗り越えられたらきっと新たな自分に巡り会えるはず。ひとつひとつの試練を通じて、そう学んでいったような気がします。
ですが、そんな私も心がポッキリ折れそうになった瞬間がありました。「もうお芝居はやめよう」そう決意したとき、事務所から声のお仕事のオーディションの話をもらったんです。「受けるだけ受けて、当たって砕けたあとに劇団を去ればいいじゃないか」そうマネージャーに言われ、最後にひと花咲かせてやめようとそのオーディションに挑みました。
幸運だったのは、それが富野由悠季監督の『ブレンパワード』という作品だったこと。そもそも富野監督は私の舞台を観て、劇団を通じて声をかけてくださって、他にも私と同じ舞台出身の役者さんが多く配役されていました。見るのも触れるのも全てが新鮮で、とても楽しい現場だったんです。
富野監督には、その後も大きなチャンスをいただきました。『∀ガンダム』で初の主演、初の男の子役であるロラン・セアックに選ばれたことは、私にとって重要なターニングポイントでした。
『シャーマンキング』に出演したときは、プロの声優さんたちに囲まれて、技術不足を痛感していたころ。このときは、共演の高山みなみさんと林原めぐみさんに救われました。「舞台に立ってるならわかるでしょ」と、芝居をする上での大切なことを厳しく教えてくれたんです。自分だけに集中して芝居がつくれるわけがない、すべての作品は声優同士のチームワークで作るものなのだと改めて気づかせてくれたおふたりは、大恩人です。
声優の仕事ではその後、『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリックという大役をいただき、全力投球する毎日でした。芝居と両立させることはむずかしく、舞台から離れるのは仕方のないことでしたが、寂しさもあったんです。それと同時に、舞台に立つことに尻込みしている自分にも気づきました。
そんな私を再び舞台に引き戻してくれたのが、橋爪功さんでした。ヅメさんは、静岡県伊豆市土肥地区で菜の花舞台という野外劇を開催しているんですが、2003年の第10回公演に私を起用してくださったんです。
菜の花舞台はとても思い出深い公演で、実は富野監督が私を発見してくれたのも、この舞台でした。声の仕事をしながらの厳しいスケジュールでしたが、「やってみろ」とヅメさんに背中を押され、寝る間も惜しんで体当たりで役に臨むことができたんです。
この経験を通じて、やっと自分を取り戻すことができたように思います。舞台に立つということは、マイクの前で演じることと同様、私にとって大事な経験なんです。これまでさまざまな経験をさせていただいたことで、集団に対する私の想いも深まっています。
そんな中、今回、台東区に稽古場をかまえる演劇集団円の一員として第1回したまち演劇祭に参加させて頂くことをとてもうれしく思っています。
「四谷怪談」という作品には以前から興味があったんです。今回、この作品を通して女性がもつ哀しみ、男性がもつ欲望、それぞれが交差して織り成す普遍的な男と女の物語がつむぎだせたらいいと思っています。韓国の劇作家で私の叔母の韓泰淑(ハン・テスク)に脚色を依頼したのですが、新たなお岩像、伊右衛門像が出現しそうな予感があります。ぜひ、その目で確認しにいらしてください。
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演劇集団円
『死んでみたら死ぬのもなかなか四谷怪談―恨(ハン)―』 歌舞伎に限らず多ジャンルで上演されている名作『四谷怪談』を、演劇集団円が大胆に蘇らせる。脚色を手掛けるのは、韓国演劇界を代表する演出家・韓泰淑(ハン・テスク)。演出はマーティン・マクドナーなど、海外戯曲の演出に定評のある森新太郎がつとめる。「お岩」を演じるのは、声優としても評価の高い朴璐美。一味違った『四谷怪談』をお楽しみに!
ちなみにこの作品は、「第1回したまち演劇祭in台東」の参加作品。大衆演劇発祥の地で開催される、華やかな演劇の祭典にも注目あれ!
東京公演 第1回したまち演劇祭in台東参加公演 2010年08月08日(日)~2010年08月15日(日) 2010年8月20日(金)~2010年08月22日(日) シアタートラム 小島アートプラザ・講堂(台東デザイナーズビレッジ)
取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)











