【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.100】松尾スズキ『僕にとって劇団はホームと呼べる存在』(掲載開始日:2010年5月13日)

松尾スズキ(まつお・すずき)
1962年12月15日、福岡県生まれ。88年、「大人計画」を旗揚げ。作、演出、俳優をつとめる。97年、『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』で第41回岸田國士戯曲賞受賞。以降、小説、エッセイも精力的に執筆。代表作に、芥川賞候補にもなった『クワイエットルームにようこそ』、『老人賭博』など。その他、映画監督やバラエティ番組の企画、構成、総合演出を手掛けるなどさまざまな分野で活躍している。

たまたま居心地よかったのが演劇研究会だった (松尾スズキ)

大学では漫画研究会に入ろうと思ってたんですが、レベルの高い漫研でついていけなくて。ちょうどその隣で、演劇研究会が発声練習をしていて、興味本位で覗いてみたのがはじまりでした。6~7人で活動している小ぢんまりした劇研で、集団活動が苦手な僕でも居心地がよかったんです。

演劇は3年生までやって、4年生のときは絵を描いてました。だから、大学を卒業して、印刷会社に就職してからは、演劇のことなんか思い出しもしなかったんだけど、会社生活についていけなくてサラリーマンをやめて、東京で2年くらいブラブラしているころにたくさん芝居を観たんです。で、僕が九州でやってたような演劇でも、意外にやっていけるんじゃないかと高をくくったわけですね。

雑誌に「劇団員募集」の投稿したり、友達のツテで集めた仲間が5人くらい。新宿のタイニイ・アリスでやった準備公演に温水(洋一)なんかも観に来てて、だんだんと初期のメンバーが出来上がっていきました。

当時の演劇って、わめきちらすようなものが多かったと思うんですけど、自分の生理に合わなくて、普通に日常でしゃべってるような声で演じるような芝居をやってました。もちろん、それを職業にしようとは思ってなかったですね。そのころは、学校の先輩のコネで学習誌にイラストを描く仕事をもらったりして、月10万円くらい稼いでたのかな。家賃も2万5000円だったから、それでなんとか生きていけたんです。

劇団を続けていくことでメンバーが淘汰されていった (松尾スズキ)

大人計画の活動が軌道に乗ったと思ったのは、宮沢章夫さんとの出会いが大きいですね。宮沢さんのラジカル・ガジベリビンバ・システムには衝撃を受けていて、「出してください」といったら、海のものとも山のものとも知れない僕の突然の頼みを聞いてくれたんです。以後、テレビやラジオでも取り上げてもらえるようになって、裾野が広がっていった。

とはいえ劇団では、「屋上からタマゴを割らずに落とせるヤツは誰だ?」なんてことを必死で考えてみたり、花火をしながら街を練り歩いてみたり、ワークショップともつかない悪ふざけばかりやってたような気がします。で、そういう僕のやり方が嫌な人は辞めていって、最終的には変な人が残っていきました。要するに、日常のうっぷんを作品にぶつけられるような曲がった人間ですよ。

そのうち、宮藤(官九郎)阿部(サダヲ)たちが入り始めて、いろんな才能がぶつかり始めたころからは楽しかったですね。

宮藤は最初、すごい暗い感じの男だったんだけど、稽古場でいつも隣に座らせて意見を聞けば面白いことを言うし、役者をやらせても責任のない立場でやるから面白いんですよ。いつしか、「これ面白いのかな」と迷ったときに、宮藤が笑ってるかどうかで判断するような存在になってました。だから、今あいつが隣にいないのはちょっと寂しいですね。

阿部はさらに輪をかけて暗いヤツで、ちゃんとしゃべるようになるには時間がかかりましたけど、入団して翌年には主役をやらせていました。今ではあいつは日本一の俳優だと思ってますけど、わりと早いうちから「こいつは面白い」ってわかってたつもりです。実際、演劇ぶっくのファン投票で、ずっと上位に選ばれていた僕の座を阿部がアッという間にうばっていったときは、「ついに来たな」と思いましたしね。

俳優としても、積極的に活動していきたいですね (松尾スズキ)

劇団というのはやはり、僕にとってはホームみたいな存在です。バラバラになってきたなと感じた時期もあったけど、もともと劇団員とはなるべく遊ばないようにしてきたくらいで、そのおかげでここまでやってたという感じ。むしろ最近は、他の劇団に客演したり、テレビや映画に出たりして学んだことを持ち帰ってきてくれる場として、「ここが一番面白いでしょ」って言えるような気がします。少なくとも僕にとってはね。

執筆活動も、最初は大人計画の名前をアピールするための戦略的手段としてやってきたところがあります。今では小説を書いたり、映画を監督したりというのは、劇団とはまた別の表現活動になってますけど、もともとは劇団を宣伝するものだったんです。

ただ、自分の劇団の場合、演出家として他の俳優の演技を見ているほうが面白いから、俳優としての自分の出番って、自然に減っていくんです。僕は野田(秀樹)さんみたいに体力ないですから。だから俳優としては、気になる演出家がいれば積極的に組んでいきたいなと思っているんだけど、今回、『裏切りの街』の演出を担当する三浦(大輔)は、久しぶりにそう思わせてくれた人なんです。

三浦のいいところは、きれいごとをいっさい言わないところ。おそらく、三浦がきれいごとを言い始めたら世も末でしょ(笑)。世代的には、僕と三浦の間にはスポンと真ん中の世代が抜けていて、年齢はずいぶん離れているけど、彼の存在は頼もしく感じているんです。幕が開くのが楽しみですね。

僕は打ち上げは苦手だし、稽古や公演中で楽しそうにやってる人を見ると逆に腹が立つタイプなんだけど、場当たり(リハーサル)で仕掛けをたくらんでいるときはワクワクするんです。今回も、かなりワクワクする体験が待っていそうな予感はしますよね。

松尾スズキさんへQ&A

Q:最近、面白かった本は?
A:チャールズ・ブコウスキーの『死をポケットに入れて』。70歳を過ぎた老人でも、こんなに過激
でいられるんだってことに勇気づけられました
Q:落ち込んだときに食べるパワーフードは?
A:カップヌードル。すするっていうのがいいんでしょうね。気分転換になります。
Q:最近の悩みごとは?
A:「やりたいことが多すぎる。全部やろうとしても、体力的にムリってことがわかってるのがつらいですね

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

演劇は敷居が高いっていう人いるけど、だからって敷居を低くしたら面白くないと思うんですよね。歌舞伎だって、初めて観て面白さがわかる人って少ないでしょ? それと同じで、何回か観ることでわかる面白さって、必ずあると思うんですよ。くじけないでください。

これから演劇をしようと思っている人へ

結局、最後に残るのは才能のある一握りの人たちなので、自分がその輪の中に入れるのかという問いかけは、つねにするべきでしょう。ウチの劇団でも、ホントにここでしか輝ける場がないんだなってヤツが残ってます。自分には向いてないなって感じたら、辞めるという判断も必要です。

松尾スズキさんの次回公演情報

パルコ・プロデュース
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パルコ・プロデュース
裏切りの街

2006年、『愛の渦』で岸田戯曲賞を受賞した劇団「ポツドール」の三浦大輔の書下ろし・演出作品が、ついにパルコ劇場に登場する。決断を先送りし続ける男女の愛と裏切りを描くこの作品に出演するのは、秋山菜津子ら演劇界屈指の俳優陣と注目の若手俳優たち。そして、 2006年の『労働者M』以来の外部の舞台出演となる松尾スズキがどんな演技を見せるのか、注目が集まる。峯田和伸率いる「銀杏BOYZ」が手掛ける音楽も楽しみだ。絶対に見逃すな!

東京 大阪
2010/5/7~2010/5/30 2010/6/5~2010/6/6
PARCO劇場 森ノ宮ピロティホール
福岡  
2010/6/8  
福岡市民会館  
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取材・文/ボブ内藤 撮影/松谷祐増(TFK)

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